病院で見かけた女性

ちよみ

2012年12月15日 11:41

病院で見かけた女性



    喉の辺りをしきりに触りながら、隣の人と話をしている50代とおぼしき女性がいた。

    病院内は、暖房が効いているとはいえ、それでも上着なしでは肌寒い。

    にもかかわらず、その女性はセーターを肘まで腕まくりして、平気な様子だ。

    いや、他のことに気を殺がれているので、寒さを感じないのかもしれない。

    「あたし、どうも甲状腺がおかしいらしいんだよね。腫瘍らしきものがあるんだって。今、首のエコー検査して来たんだけれど、甲状腺の機能が亢進しているのか、それとも低下しているのかも、よく判らないんだそうだよ」

    と、いうような内容を隣に座る年上らしき女性に、一生懸命訴えている。

    「身体の調子、悪いところあるの?」

    年上女性が訊く。

    「ううん、全然、何ともないんだよ。いたって元気。腕の骨に石灰が溜まって肩が上がりづらくなることはあるけれど、風邪もひかないし、頭痛がするわけでもないし、疲れるなんてこともないし・・・」

    女性は、そう言ってから、

    「でも、このままにしておくと、腫瘍が大きくなってしまって、物が飲み込みにくくなるということもあるらしいんだよね」

    言葉は元気だが、端々に不安がのぞく。

    確かに、見たところごく健康そうな女性だ。まさか、自分の甲状腺にそんなものが出来ているとは思えないだろう。

    わたしの知り合いにも、甲状腺腫を持っていて定期的な通院をしていた女性はいるが、その人のものは良性であまり大きくなるようなものではなかったので、今では一年ごとの経過観察で済んでいるという。

    しかしながら、いきなり「あなたの甲状腺に腫瘍があります」なんて言われれば、誰でも瞬間はパニックになる。

    年上女性が先に帰ったあとも、その女性は何度も喉の辺りをさすりながら、困惑顔で椅子にかけていた。

    身体に何の異常も感じないのだから、何か解せない気分もあるだろう。

    彼女の様子を横目で見ながら、他人事とは思えない気がして、わたしも思わず首の手術痕を触ってしまった。



    
<今日のおまけ>

    冬の自動車での移動の際に困ること----。

    除雪重機の後ろについてしまうこと。こうなってしまうと、スピードを上げようにも絶対に上げられない。

    延々とその後について進むしかない。雪道故に、安易な追い越しをかけることも難しい。

    そんな訳で、自分の後ろには長い車の行列が出来る。

    これも何だかプレッシャーになる。
   
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