女与力・永倉勇気 捕物控 ⑳
勇気は、悩んでいた。大番屋へ赴こうとしていた足を、その場に止めると、そっと唇を噛んだ。
高島同心の口から、陰間の菊乃が犯行を自供したと聞かされても、俄には信じられず、胸中に渦巻くもやもやとした苛立ちと割り切れなさ、何かが見えていながらそれが何であるのか判らないもどかしさに、勇気の神経は、今にも激しく軋(きし)み出しそうであった。
北町奉行所の敷地内の一角には、奉行所の本棟とは渡り廊下でつながっている武道場がある。同奉行所の与力や同心たちは、この武道場で、日々、剣術、十手術、柔術等の鍛錬に努める訳であるが、勇気は、誰もいないその武道場に独り入ると、己の鈍麻した精神に活を入れるかのように、木剣を手に素振りをし始めた。
(何故、陰間は、こうもあっさりと罪を認めたのであろうか?あれほど周到な殺害方法を講じておきながら、あまりに詰めが粗雑過ぎる------)
明らかに、何かが食い違っているのだという意識が、勇気にはあった。そんな疑念の霧を一刀一刀斬り払うかの如く、勇気は、木剣を振るい続けた。
と、次の瞬間、武道場の出入口の引き戸を開けて、男が一人顔を出した。気付いた勇気が素振りの手を休めてそちらを振り返ると、そこに立っていたのは、町奉行の榊原であった。
榊原は、一瞬状況の把握に窮する勇気に向かい、
「おれが、武道場に来ちゃァ迷惑かね?」
と、戯(ざ)れたのち、俄然、真顔に戻るや、
「勇気、お前、どうして大番屋へ行かんのだ?菊乃という陰間に、問い質したいことがあるんじゃないのか?それとも、高島の後塵を拝して、気が萎えたか?」
まるで、相手を挑発するような言い方で、勇気の反応を探って来た。すると、勇気は、
「馬鹿を言わんで下さい!真相は、必ずや別の所にあるはずです。絶対に突き止めてみせる」
正しく、それに乗せられた格好で、榊原に食って掛かる。その態度を見た榊原は、実に満足そうな笑みを浮かべ、
「その意気だよ」
そう、勇気を激励してから、手に持っていた分厚い一冊の文書を、読んでみなさいと、彼女の前へ差し出した。怪訝な面持で文書を受け取る勇気に、榊原は、こう説明する。
「これに記されているのは、吟味方筆頭与力の伊庭弥七郎が、自ら数寄屋橋門内の南町奉行所まで足を運んで調べた、小石川の町医者・坂口方義(さかぐちまさよし)の焼死に関する顛末だ」
「伊庭さんが、これを・・・・・?」
伊庭の協力は、勇気には意外なことであった。そうだよと、榊原は頷き、
「伊庭が記すには、火事で全焼した診療所兼自宅の焼け跡から発見された坂口方義の焼死体には、刀傷らしきものも認められたため、南町奉行所(みなみ)の捜査担当者たちも、初動の段階では、強盗放火の疑いもあるという観点から調べたようだが、結局、ことの真偽は判らずじまいのまま、投入捜査陣の人数も縮小され、捜査は事実上の打ち切りとなったそうだ。何分、おれが北町奉行に就任するより二月(ふたつき)近く前の、去年の三月に起きた一件だけに、おれには詳しい記憶もないのだが-----」
榊原が、そこまで言い掛けた時、文書に目を通していた勇気の顔に、俄然、興奮の朱が差した。
「坂口方義には、今年二十歳(はたち)になった一人娘がいるんですね。娘の名は百合(ゆり)。家族は、父一人、娘一人と、ここには書かれてある。それに、通いの診療所助手で、医者見習いの菊村一馬(きくむらかずま)という若い男のことについても-----。しかし、父・方義の死後、娘の百合と菊村一馬の所在は不明。もしや、この菊村一馬は------」
勇気は、愕然として文面から顔を上げ、榊原を見る。
黙したまま、静かに頷く榊原に向かい、これもまた無言の体で一つ礼を返した勇気は、手にしていた文書と木剣を、然るべくという具合に図々しくもこの上司に預けるなり、その足で、定町廻り同心御用部屋へ赴くと、そこにいた辻井清太郎に、一言、
「これから、陰間の菊乃に会いに行くから、お前も一緒に来い」
と、声を掛ける。この言葉に、清太郎は、同僚との雑談を即座に切り上げ、二つ返事で慌ただしく、勇気のあとを追って奉行所を飛び出して行った。
~今日の雑感~
皆さんは、UFO(未確認飛行物体)という物を見たことがありますか?
かれこれ、もう十年以上前になるのですが、わたしは、それらしきものを見たことがあるのです。
詳しい日時は忘れましたが、我が家のベランダに干してあった洗濯物を取り込もうとしていた時で、暖かな頃の夕方に近い時刻のことだったと記憶しています。
まだ、空は暗いというほどではなく、薄い藍色に染まり始めた北西の山の上の辺りに、突然、ポツンと、小さなオレンジ色の光が現われました。そのオレンジ色の光は、しばらくその一点にじっと留まっていたのですが、やがて、ゆっくりとまっすぐ上空へ移動し、今度は点滅を始めると、すうっと下へ降り、次には、また上へ移動し、ジグザグに不規則な上下運動を続けたのです。驚いたわたしは、家の中にいた家族を呼び、一緒にその不可思議な移動物体の動きを見詰めました。
でも、目を離したすきに、消えてしまうのではないかという気持ちから、どうしても、カメラを取りに家の中まで戻ることが出来ませんでした。すると、その光は、今度は後ろへ下がり、また、前へ動き、実に奇妙な行動をとっていましたが、次第にそれにも飽きたように、やがて、西の空に向かってまっすぐに進んだかと思うと、あっという間に、消えてしまいました。
あれは、いったい何だったのでしょうか?飛行機やヘリコプターの類でないことは確かです。何故なら、飛行音が、まったくしなかったからです。そのあと数年経ってから、アメリカ人の英語教師にその話をしたところ、
「そいつは、間違いなく、UFOだ」
と、言うので、そうなのかと、思っていましたが、UFOとは、そもそも俗にいう『空飛ぶ円盤』という物ばかりではなく、各国の軍事機密に属する秘匿的飛行物体も、またそのように呼ぶことがあるそうで、そのアメリカ人曰く、
「もしかしたら、自衛隊の新型の秘密戦闘機ではないか?」
とのことですが、我が国の自衛隊に、そんなとてつもない代物を開発する技術も予算もあるとは思えません。
そんな訳で、わたしの中では、未だに謎の出来事でした。
因みに、地球人の体内時計は、実際は一日が二十五時間周期で出来ているのだそうで、火星時間がそれに相当するのだそうです。この二十五時間周期の身体を、地球時間の二十四時間に強引に当てはめているから、人間の寿命は短いのだそうです。もし、これを火星時間に直したとしたら、平均寿命は百二十五歳にはなるのだとか・・・・。
この話、皆さんは、信じますか?(^。^)
ところで、実は今日初めて、「追記」なる物を使ってみました。こんな風になるんだなァ-----って、ちょっぴり、カンドー!
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