真夜中の呼吸音
真夜中の呼吸音
あまりに暑いので安眠のためにと、夜11時を過ぎた頃、アイス枕を冷蔵庫まで取りに台所へ行った。
台所の照明をつけて、冷凍庫で冷やしてあるアイス枕を取り出し、部屋へ戻ろうとした時である。
何処からともなく、奇妙な音が聞こえて来た。
「スー、ハー、スー、ハー・・・」
まるで、誰かが寝息を立てているような音だった。
どうやら、音は、今来た台所の方から聞こえて来る。
耳を澄ますと、台所の隣にある洗面所の天井あたりからしているようなので、もしや、また猫か何かが天井裏へ入り込んだのかと思い、じっと息を殺して天井付近へ意識を集中する。
すると、しばらくして音はピタリと止まった。
もしかしたら、外の虫の音か何かを息づかいと勘違いしたのかもしれないと思い直し、その時は部屋へ戻ったのだが、さらに一時間ほどして、もう一度確かめておこうと、台所へ向かった。
と、また、あの音がしている。
「スー、ハー、スー、ハー・・・」
今度は先ほどよりも音が近くで聞こえる。
その時、目の前にある台所と洗面所を区切るアコーディオンカーテンが、ゆらゆら揺れていることに気が付いた。
そして、そのアコーディオンカーテンのすそにどういう訳かガムテープの切れ端がくっついていて、それがカーテンが揺れるのと同時に床にこすれていたのである。
「シャー、サー、シャー、サー・・・」
無意識のうちに、わたしが手を触れていたせいで、カーテンが揺れ、つられてガムテープが音を立てていたのだった。
幽霊の正体見たり、枯れ尾花----。
マジに冷や汗をかいた。
もう、これ以上面倒くさいことが起きるのは勘弁して欲しいと思っていたので、呼吸音の正体が分かってホッとした。
<今日のおまけ>
高齢になると、空間認知力が若い頃より衰えるように思う。
たとえば、物と物の距離感とか、場所、どちらを先に使ったかとか、どちらを向いていたのかなどの記憶があいまいになるようだ。
何か目印となるような基準があれば記憶しやすいようなのだが、以前の記憶と混ざり合ってしまい、正確なところが思い出せない----と、いうか、間違って思い込んでしまう場合が多いそうだ。
冷静に考えれば他の記憶とのすり合わせで、その記憶が間違っていることに気付くはずなのだが、関連する記憶にも思いが巡らない。
要するに、それがいわゆる「頭が硬くなっている」ということになるのだろう。
しかも、自分が間違っていることを認めたくないという意固地さだけは若い頃の倍になるので、手を焼く家族も少なくない。
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