浴室殺人事件・・・・・877
~ 今 日 の 雑 感 ~
浴室殺人事件
会社員のAさん(55歳)は、大の風呂好きで、毎晩、自宅の風呂に一時間以上も入浴するという習慣があった。
しかも、お湯の温度はいつも妻が適温に調整しておいてくれるので、いきなり浴槽へ飛び込むのが当たり前になっていた。
そして、Aさんは、絵画教室の教師をしている妻に、日本各地の名湯や秘湯の成分が入っている入浴剤を何種類も用意させ、毎日好みの入浴剤を浴槽へ入れては、温泉気分を楽しんでもいたのだった。
そんなAさんが、その日も仕事を終えて帰宅したのち夕食を済ませ、いつものように浴室へ入ろうとした時、妻は、「朝食用の卵をきらしちゃったので、コンビニまで行ってくるわ。下着は、いつものように脱衣かごに入れてあるから、着替えてね。玄関、鍵をかけて行くから・・・」と、言い、家を出て行った。
Aさんは、「ああ」と、生返事をして服を脱ぎ、浴室へ入る。浴室内は、いつものように暖かく湯気が立ち、浴槽の湯には、既にオレンジ色の入浴剤が入れられ、Aさんは、そんな妻の気配りが嬉しかった。
それから、約三十分が経過し、妻が家へ戻って来た。
コンビニで買って来た卵のパックを台所へ置くと、夫が入っている浴室へ行き、曇りガラスのドア越しに中へ声をかける。
「お湯加減はどう?」
だが、浴室内からは返事がない。耳を澄ましても、お湯のあふれる音や咳払い一つ聞こえない。
不思議に思った妻がガラスのドアを開けて中をのぞくと、浴槽の中にグッタリと俯くAさんの姿。妻は慌てて救急車を呼んだが、救急隊員が駆け付けた時には、既にAさんは死亡していた。
Aさんの死因は、何らかの事故による心臓麻痺。しかし、一応妻が外出中の不審死という扱いとなり、県警の捜査が入ることとなった。
とはいえ、妻が外出中の玄関は鍵が掛けられていた訳で、家は密室状態。外部からの侵入された形跡もないため、若手の刑事たちは、皆、事故死として処理しようとしたのだが、ただ一人、ベテラン刑事だけは、その結論に疑問を持ち、最初に駆けつけた救急隊員らに訊ねた。
「あなたたちが到着した時、Aさんは、どんな風に浴槽の中に倒れていたのかね?」
救急隊員たちは、「Aさんは、透明なお湯の中に入っていました。お湯は、既にかなり冷たかったです」と、答える。ベテラン刑事は、それを聞いたのち、何気に浴室の棚に置かれていた入浴剤を見てこう言った。
「これは、おそらく、意図的にAさんの心臓発作を誘発させた殺人事件だ」
何故、ベテラン刑事は、Aさんの死を殺人事件と判断したのでしょうか?そして、犯人は誰なのか?
推理してみて下さい。
答えは、「続きを読む」で。
<今日の答え>
心理を考えると判るのですが、人は、普通、無色透明なお湯に入る時は必ずお湯の温度を確認しようと湯船に入る前、一応湯に手を入れますよね。ですから、Aさんも、もしも、最初からお湯の色が透明ならばそうしたはずなのです。手を入れてみれば、それが冷水だということが判り、そのままお湯に入ることなどなかったはずなのです。
しかし、暖色系であるオレンジ色の入浴剤があらかじめ入れられていたとすれば、その色だけで人は「温かい」というイメージを持つため、たとえ冷水にこのオレンジ色の入浴剤が溶かされていた場合でも、色の感覚だけで湯船のお湯は温かい筈だと思い込み、Aさんの癖からして、湯の温度を確認することなく、いきなり飛び込んでしまうことも想定されるのです。
そして、犯人は、心臓麻痺を起こし死亡したAさんの身体が入っている浴槽の冷水をいったんすべて空にしてから、改めて普通の水を張っておいた訳ですね。これで、Aさんがいつもの調子で冷たい水へいきなり入ったための心臓麻痺という死因をでっち上げたのです。
しかも、浴室内をシャワーの湯を使って暖めておくという念の入れようですから、Aさんは、何も疑うことがなかったのです。
つまり、犯人は、Aさんがいつもどのような入浴方法を行なっているかを知っていた人間で、更に色の持つ概念的トリックを使うことができる人物ということになります。
そういう心理の不思議を利用したお話でした。
その後、妻は、ベテラン刑事の追及にAさん殺害を自白。その場で逮捕された。
*** こういう事件が実際にあれば、おそらく未必の故意にあたるのではないかと思います。
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