ホテルは、葬式も出せない・・・・・243
~ 今 日 の 雑 感 ~
ホテルは、葬式も出せない
知り合いのホテルの大女将が亡くなった。
しかし、お通夜も告別式も、ホテルではやらないという。すべて、遠くのセレモニーセンターで行うとの連絡があった。
我が家も立ち悔やみぐらいは行かなくては義理が果たせないということで、香典を用意していたのだが、お通夜がホテルではなく別の場所で行われるということだったので、お通夜と告別式のあとで直にホテルまで届けることにした。
わたしの父が一応黒の上下を着て、そのホテルへ赴いた時、応対に出たホテルのご主人と奥さんが、少し慌てるようにして父を別の部屋へ招き入れた。
父が、二人に香典を渡し、どうして、こんなに大きなホテルなのに、ここから大女将を送り出さなかったのかと、訊ねたところ、息子であるご主人が、こんなことを話してくれたのだという。
今から十年程前、先代の社長であるご主人の父親が亡くなった時、ホテルでお通夜を行うべく、一つ広間を通夜の席に取り、近所の人たちにお悔やみに来てもらったのだという。
ところが、結婚式などの慶事と違って、弔事は突然やって来るもので、もちろんその日もホテルには宿泊客が大勢いたのだそうである。すると、その客の中の一人が、突然フロントまでやって来て、
「さっきから、線香の匂いはして来るし、喪服を着た人たちは出入りするし、このホテルは、葬式でもやっているのか!?自分たちは、楽しい気分で旅を満喫しようと思っているのに、葬式とぶつかるなんて、縁起が悪い。別のホテルに移りたいので連絡をしてくれ」
と、言ったのだそうである。ご主人は平謝りに謝って、そのお客のために別のホテルを紹介したのだという。
すると、父が、そういうことなら、ホテルで葬儀をするために、予約が入っている宿泊客たちを違う旅館やホテルへ割り振ればいいんじゃないのか?-----と、いったところ、ご主人は、そういうこととなると、今度はその理由を客に説明しなければならなくなり、やはり、問題が生じるのだと、説明したという。
確かに、わたしが宿泊客の立場でも、いきなりホテルを変わってくれと言われれば、その理由を聞きたくなるのは当然である。そうなれば、やはり、本当のことを話さねばならなくなる訳だ。
「そんな親父の時の苦い経験があり、母親がなくなった時の通夜も葬儀も、このホテルでは出来なかったということなんですよ」
ご主人は、溜息まじりに応えたのだった。長年身を粉にしてホテルのために頑張って来たにもかかわらず、自分が亡くなった時は、そのホテルで通夜も葬儀もしてもらえないという矛盾。
「でも、大女将は、判ってくれていると思います・・・・・」
奥さんは、父にそう話したそうである。
お客商売の難しさというものなのであろうか?ホテルや旅館は、お客に幸せを提供するのが仕事である。そのためには、自分の身内の不幸でさえ公には出来ないという皮肉があるのだということを、考えさせられた一日であった。
<今日のおまけ>
国内の何処かの病院で、30代の内科医が病院職員と看護師に頼まれて、彼らの子供たちへの新型インフルエンザワクチンの接種を優先して行なってしまったということが、ニュースで取り上げられていた。
その子供たちは、別に持病がある訳ではない、ごく健康な子供たちだったそうである。
わたしは、そういう身近な人物の接種を優先するようなことが起きるのではないかと、家族とも話をしていたのだが、やはり、起きたかと、いう気持ちであった。ただ、その30代の内科医が、自分の身内に優先接種した訳ではなかったことが救いだが、それでも、その医師に、我が子の優先を頼んだ職員や看護師は、いったいどういう神経をしているのかと、呆れるばかりである。
我が子に早くワクチンを接種して欲しいと、子供病院の前に座り込む親もいるというのに、医療関係者がこのような不正をするようでは、何のための順位付けか、意味が判らなくなるというものだ。
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