スキー・ホテルの怪(前)・・・・・307

ちよみ

2009年12月29日 20:50

< 不 思 議 な 話 >


スキー・ホテルの怪(前)



    長野県北部にあるスキー場の天候は、午後から崩れ、夕方五時を過ぎる頃にはブリザードが吹き荒れるような猛吹雪となった。

    ゲレンデ内のナイター滑走もこの日は早くに中止が決まり、お正月休暇を利用してスキーに訪れていた大学生の光二と勇平の二人の友人同士は、残念に思いながらも、ゲレンデ近くのホテルへ戻り、夕食までの時間を、部屋の中でゆったりと過ごしていた。

    二人の部屋は、二階のツインルームで、ゲレンデが見える窓際のベッドには光二が、壁際のベッドには勇平が寝そべり、それぞれ漫画本を読んだり、テレビを観たりしてくつろいでいた。

    「せっかくここまで来たんだから、もう少し滑りたかったよな」

    光二が漫画から眼をあげて言うと、勇平も、テレビを観ながら、そうだなと、頷く。

    「でも、まだ、あと二日ここに泊まる予定だから、明日は嵐もおさまるだろう。そうなりゃ、オフピステを楽しめるぜ」

    そう光二が何気なく窓ガラス越しに外の吹雪の世界へ目をやると、吹き荒れる大雪の中、ゲレンデにぽつんと一つの人影を見つけた。戸外は、もはや闇に包まれているはずなのに、何故か、その人物のところだけがぼんやりと雪明かりに照らされているように明るんでいる。

    しかも、その人物は、そこから一歩も動くことなく吹雪のただ中に佇んだまま、まるで、こちらを睨み付けているかのように仁王立っているのである。

    光二は、少し薄気味悪さを覚え、勇平を呼んだ。

    「勇平、ちょっと見てみろよ。あの男、さっきからずっとあそこに立ったまま、こっちを見ているんだが、変だと思わないか?」

    光二の言葉に、勇平が渋々ベッドから起き上がり、窓際へ近付くと外の景色に目をやったが、

    「なんだよ、誰もいないじゃないか。こんな嵐の中に人が立っている訳ねェだろう。お前の見間違いだよ。立木かなんかを人と思ったんじゃないの?」

    そう言って、面倒くさそうにまた自分のベッドへと戻った。光二も再び目を凝らしたが、やはり勇平の言うように、そこには誰の姿も見えなかった。

    「変だなァ・・・・。確かに見たと思ったんだが・・・・?」

    光二は、首を傾げる。やがて、時刻は午後六時を回り、夕食の時間となったため、二人は、階下の食堂へと降りて行った。

    夕食は、バイキング形式で、他の宿泊客たちも大勢集まり、かなりにぎわっていた。光二と勇平も思い切り好物を皿に盛り付けると、腹いっぱいになるまで、肉料理やデザートを堪能したのだった。

    「あ~、おれ、もう食えねェ!腹がパンパンだよ」

    部屋へ戻ると勇平はそのままベッドへ倒れ込む。光二は、窓にカーテンを引くと、

    「おれ、これから風呂へ入ってくるけど、お前どうする?」

    勇平に訊ねる。勇平は、自分はいいから、光二だけで入ってこいと応えるので、光二は、独りでホテルの大浴場へと向かった。

    そして、風呂からあがって部屋へ戻ると、既に、勇平はベッドへ潜り込みぐっすりと眠りこけている。光二も、ドアの鍵をしっかりとかけたのち、自分もベッドへ入り、やがて眠りに落ちて行った。 


つづく
    
<今日のおまけ>

    信州大学繊維学部(上田市)の学生が運営するTシャツ店で売り出した「軍手ィ」が、大好評で、インターネットのホームページには注文が殺到し、受付を一時停止するほどの売り上げだったという。

    そして、その売り上げで作った子供用の「軍手ィ」を、このほど、上田市内の全小学一年生に配るというプロジェクトが行なわれたそうである。

    児童たちは、この「軍手ィ」をとても気に入り、「可愛い」「早くつけて遊びに行きたい」と、大好評だったとか。

    軍手一つで笑顔の輪が広がるなんて、素晴らしいことだと思う。

    実は、わたしも、以前、真冬のさなか、手袋がなくて手が冷たいとべそをかいていた下校途中の小学校低学年の男子児童に、自分の手袋をあげたことがある。母親が忙しくて、子供の手袋にまで気が及ばなかったのだろう。

    小さな手に、大人用の手袋をはめて嬉しそうに「バイバイ」をしながら帰って行った男子児童の笑顔が、未だに忘れられない。彼も、今はもう、20歳ぐらいの青年になっているだろうな。
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