おばさまたちのアイドル・・・・・329

ちよみ

2010年01月12日 13:05

~ 今 日 の 雑 感 ~


 おばさまたちのアイドル 



    先日の通院日、わたしが外来の待合所で椅子に腰をかけ、診察の順番を待っていると、そのすぐ隣に、70代前半と思しき一人の女性が腰を下ろした。

    ジャンパーに毛糸の帽子、少々小太りの体格の良いその女性は、何処かそわそわとした様子で、落ち着きがない。

    時々、「はあ・・・・」と、溜息をついたりもしている。

    わたしは、何か心配な病気なのだろうか?それとも、身内に病人を抱えていて、その症状が気になるのか?----などと、その女性を横目で見ながら、勝手に想像を膨らませていた。

    やがて、そんな彼女のそばへ、やはり同じ年頃の女性が二人やって来ると、親しげに話しかけた。

    「どうだった?会えた?」

    「まだ、診察中?」

    すると、女性は、目の前に立つ二人を見上げ、

    「ううん、まだ-----」

    と、首を振る。すると、その知り合いらしき二人の女性たちもがっかりした顔つきになり、そのうちの一人が意を決した口調で、こう言った。

    「な~んだ、まだ会えないのか・・・・。じゃァ、あたしがいつ診察が終わるのか訊いてくる」

    「いいよ。そこまでしなくても-----」

    隣に腰かける女性は遠慮がちに言うが、知り合いらしき女性は、さっさと外科外来受付の方へと行ってしまった。そして、しばらくして戻って来ると、

    「たぶん、診察が終わるのはお昼過ぎになるって。まだ、だいぶ時間あるよね。その辺で、お茶でも飲む?」

    しかし、腰を下ろす女性は、ううん、ここで待っていると、彼女に付き合うそぶりはない。そのうちに、もう一人の女性が奇妙なことを言いだした。

    「せっかくだから、あたしも一目拝んで行こうかな。あんたたちのアイドル」

アイドル-----?

    わたしは、何のことかと、さらに聞き耳を立てた。と、隣の女性が急に声高になり、

    「やめてよ。あたしは、ただ、お礼を言いたくてさ。あんたたちだってそうでしょ?だから、今日、三人で来ようって決めたんじゃない」

    「まあね。三人とも手術してもらったんだから、お礼ぐらいはねェ・・・・」

    この会話で、話の内容は見えた。要するに、この三人のおばさま方は、某外科医の先生のファンクラブなのだ。同じ先生に手術をしてもらったことで、意気投合して、その担当医のファンになってしまったという訳なのであろう。

    思った通り、一人の女性がこんなことを言った。

    「あの先生が独身なら、絶対、うちの娘の婿さんなってもらいたいもんだよ」

    「何言ってんだか。本当は、あんた自身が結婚したいんじゃないの?」

    「外科医が身内になるなんて、夢、夢-----」

    そう言いながら、三人は、ワハハ・・・・と、豪快に笑った。

    その時、わたしの診察の番が来てしまった。ことの顛末を最後まで見届けたいという思いに、後ろ髪をひかれながら、わたしは、診察室へ入った。

    その後、三人のおばさま方は、彼女たちのアイドル外科医に会えたのだろうか?

    いずれにしても、これほどまでに患者に慕われる医師も、医師冥利に尽きるというものだと、わたしは思いつつ、その外科医の先生の顔を、一目見てみたかったと、後悔した。

<今日のおまけ>

    山ノ内町湯田中温泉に、梅翁寺(ばいおうじ) と、いう古いお寺があります。

    そのお寺に、湯田中の名湯を手拭いにつけ、それでさすると神通力があるという「地蔵尊」を建立しようという計画が、地元の有志の間で持ち上がっているそうです。

    わたしは、以前、湯田中駅前にある「楓の湯」に、万病予防の地蔵尊があれば、信心深い高齢者などのための、良い信仰と観光の名所になるのではないかという、地元の人の声を聞いたことがありましたが、それと似たような計画なのではないかと思いました。

    これがもとになり、湯田中温泉街に人通りを復活させ、活気を取り戻すきっかけになればと、地元の人たちは期待を寄せているということです。
関連記事