ダニー・コリガンの部屋 5

ちよみ

2009年12月18日 15:27

ダニー・コリガンの部屋




5



 アイリーンとは、海沿いのハイランド・アベニューをドライブして、食事をし、一度だけキスをして、アパートまで送り届けるとさようなら。その程度の付き合いが、もう二か月近くも続いている。

 つまり、お互いに恋人と呼べるほどの間柄ではないということで、彼女もまた、そんな淡白な関係に一応満足している様子だ。もっとも、殊に親密なお相手は、たぶん別にいるだろうし-----。

 おれは、またもや自分のアパートのカビ臭い一室に戻って来ると、ラジオのスポーツニュースでメッツの快進撃を聴いたあと、疲れた身体を冷たいベッドへ潜り込ませた。

 -----が、眠りに就く間もなく、ドアの外で何かがドサッと倒れるような、鈍い音を耳にした。

 「・・・・何だ?」

 同時に、ジワリと忍び寄って来たえも言われぬ重苦しい予感に、胸がざわめいた。

 おれは、しぶしぶベッドから這い出ると、戸外の廊下の様子を見定めるため、部屋のドアをほんのわずかだけ開けてみた。

 すると、そこには、男が一人まるでぼろきれのような格好で、グッタリと伸びている。

 おれには、その人物が、今朝がたこの部屋を訪ねて来た、あの無作法で風変わりな若い男であることが一目で判った。彼は、顔や手に無数の傷を負っていて、年代物の三つ揃えは泥だらけに汚れ、そして、ひどく怯えていた。

 おれは、不愉快に思いながらも、何故かその厄介者を無視出来ぬまま、仕方なく部屋へ引きずり込んだ。

 そして、男の服を脱がせ、傷の手当てをしてやりながらそれとなく訊いた。

 誰にやられた傷なのか?何処からやって来たのか?何の目的があって、この部屋を訪ねて来たのか?

 だが、男は、それらについては、一切の反応を示さず沈黙した。その上で、ただ一言、

 「コリガンさん、ぼくをこの部屋にかくまってください。お願いしですから・・・・」

 と、その深い青色の瞳でおれに哀願するのだった。

 おれの中の男に対する不信感は、ますます膨れ上がったが、まさか、このケガ人をこのまま無情に表へ放り出すわけにもいかず、いつしか、おれは、自分が今まで寝ていたベッドを、この謎の訪問者のために開け渡さざるを得ない心境にもなっていた。 
 ベッドへ横たわったその男に、おれは、名前を訊いた。

 「ぼくの名前は、クラウス、クラウス・リーベンアイナ―・・・・・」

 男は、名乗った。さらに、感謝と謝罪の意味を込めて言った。

 「Entschuldigen Sie ・・・・・(エントシュルディゲン ズィー・ごめんなさい)」

 「ドイツ人だったのか?」

 「Ja (ヤ)!」

 こうして、おれは、明らかに何者かの手から逃げ回っていると思われる、この謎に満ちたクラウス・リーベンアイナーという男を、たとえ一時的にせよ、部屋へかくまうことを暗黙のうちに承諾してしまったのである。

 翌日から、おれとクラウスの男二人の奇妙な同居生活が始まった。

  
  
つづく


 
<今日のおまけ>

    民主党の小沢一郎議員が、天皇陛下と外国要人の対面の申し込みは、一か月前までという慣習を崩して欲しくないという宮内庁の羽毛田長官の言葉に対して、「民主主義を知らない人間の言うことだ。そういうことは、職を辞してから言え」と、不快感を示したが、そういう小沢さんの言葉も、とても民主主義的とは言い難いような気もする。

    あまりに中国重視が露骨すぎて、中国にすり寄るためなら、天皇陛下をも利用して構わないというこのやり方は、なんだか、かつて、戦争のためなら天皇を利用しても構わないといった、旧帝国陸軍の言い方と同じように聞こえてしまうのは、わたしだけだろうか?

    わたし個人としては、一か月前ルールを無視したということよりも、陛下が、中国のナンバー2とお会いになったということの方が、より問題は深刻のような気がするのだが・・・・。

    まさか、沖縄駐留のアメリカ軍海兵隊1万3000人をすべてグアムへ移転させた後で、国を守るのは日本人の役目ですなんてことを言いだして、徴兵制を復活させようなどと思っている訳ではないでしょうね、小沢さん?
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