ダニー・コリガンの部屋 8

ちよみ

2009年12月21日 12:35

ダニー・コリガンの部屋




8



 マックは、ようやく視線をおれの顔の方へと戻し、意外そうな声で言った。

 「-----画家だよ。もう八十年以上も前に若死にしたドイツの・・・・、そうだ・・・・名前は、確か・・・・」

 そう、ほんの少し間をおいてから、

 「リーベンアイナー、クラウス・フェルディナンド・リーベンアイナーだ!」

 愕然として口走った。おれは、自分の耳を疑った。

 「クラウス・リーベンアイナーだって!?」

 後頭部をハンマーで殴られたような衝撃を感じた。息を飲んだきり、しばらく次の言葉が出なかった。

 やがて、おれの頭の中に、後悔と怒りがない交ぜになった憤慨が渦を巻き、激しく噴きあがった。

 そんなバカな話があるものか!あの男は、おれの親切をいいことに、まんまと騙していやがったんだ。おれも、とんだお人好しだぜ。奴が他人の名前を騙(かた)っているなどとは、疑いもしなかった。

 なにが、クラウス・リーベンアイナーだ!くそっ!人をなめた真似しやがって-----!

 おれがクラウスの方へ憤然と詰め寄ろうとした時だった。

 「ここにいたのか、クラウス!」

 突如として、荒々しい大声が展示会場中に響き渡ると、一人の恰幅の良い紳士風の男がクラウス目がけて大股に歩み寄るのが見えた。

 その男は、おれに例の2000ドルで部屋にあった肖像画を強引に売らせた、あの画商のジム・デドワイラーだった。

 デドワイラーは、すさまじいほど険しい憤りの形相で、驚愕の表情で凝然と凍りつくクラウスの方へと突進する。

 すると、クラウスが叫んだ。

 「来るな!ぼくに近寄るな!」

 吐き捨てるように絶叫したクラウスは、身を翻すや、とっさに後方にある階段を駆け上がり、展示会場を見下ろすように設(しつら)えられている天井近くのバルコニーへと逃げ込んだ。

 しかし、デドワイラーは、そのあとを執拗に追いかけると、ついに、クラウスをバルコニーの手すり際へと追い詰める。そして、その巨体をクラウスへと、にじり寄るように徐々に近付けて行った。

 「何故、逃げた?逃げても無駄だと言ったはずだぞ。お前は、もう、わたしのものなのだ。わたしだけのな------」

 「いや・・・・、いやだ・・・・、ぼくは、あなたのものなんかじゃァない。ぼくは、ダニーと一緒にいると決めたんだ・・・・」

 クラウスは、首を左右に激しく振りながら、じりじりと後ずさりをする。彼の背中は、既にバルコニーの手すりに張りつき、もはや、逃げ場はない。

 その瞬間、デドワイラーの両手が伸び、グイとクラウスの首に巻き付いた。

 「助けて、ダニー!」

 おれの名前を呼ぶ叫び声と同時に、クラウスの身体は、仰け反るようにバルコニーから離れると、宙を泳いでゆっくりと落下した。


 
つづく


 


 
<今日のおまけ>

    しかし、前にも何回も書いたけれど、どうして皆さん、ブログのコメント欄で、「今度、会おうね」「楽しみにお待ちしています」なんてメッセージをやり取りしてしまうのかなァ。それも、他のブロガーに判らないように、こっそりやっているつもりなんだろうけれど、これって、よくテレビで「ここだけの話だけれどね・・・」なんてふざけているお笑いタレントと、まったく同じことだと思うんだけれど。

    しかも、「そういうことって、コメント欄でやるもんじゃないよね」なんて、いけしゃあしゃあと公言しているブロガーに限ってやっているんだから、笑うよね。

    しかし、それにしても、やっぱりB型の女性って、絶対約束守らないということが、こういうコメのやり取りでも判るのだから脱帽だよ。

    「ごめんね。今日は行けなくなっちゃった。また、今度」なんて、平気で書き込んでいるのは、たいていB型女だよね。

    それを受けている相手女性。何処まで、我慢が出来るのかな?

    でも、それを承知でB型さんと付き合うのだから、我慢もし通してこそナンボだよね。
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