軍靴(ぐんか)の音・・・・・95

< 不 思 議 な 話 >


軍靴(ぐんか)の音


    昭和十七年、わたしの父方の伯父は、ビルマ(今のミャンマー)で戦死しました。

    まだ、二十三歳という若さでした。戦死といっても、最後はマラリアが悪化しての病死でしたが、当時、日本兵の中で、敵弾にあたって亡くなったという兵士は、ほとんどなく、大半の人は戦地の汚染された水を飲んだり、食糧が尽きたりしたための病死や餓死だったといわれています。

    軍靴(ぐんか)の音・・・・・95しかし、その頃はまだ、日本側の戦況もそれほど悪化していた訳ではないので、伯父の遺骨は、白木の箱に入って、ちゃんと自宅まで届けられたということです。

    祖父母は、その上の伯父も、戦地へ送り出していたものですから、息子たちの戦死は覚悟の上だったそうですが、若い方の息子が先に亡くなることになるとは思わず、かなり悲嘆にくれたといいます。

    特に、亡くなった伯父は、子供の頃から身体も大きく、わたしは、伯父の顔を写真でしか見ていませんが、なかなかの好青年で、地元の農商学校(現在の高校)では成績も優秀で常に級長(クラス委員)をしていたのでした。

    しかし、家が貧しかったこともあり、進学は諦め、卒業と同時に働きに出ましたが、まじめな性格でとにかく祖父母にとっては自慢の次男だったのです。徴兵されて軍隊(松本連隊)へ入ったあとも、数々の試験をクリアして、一兵卒から軍曹にまでなりました。

    そして、戦死による二階級特進で、伯父は少尉となって勲章と共に帰って来たのです。

    その、伯父の戦死報告が連隊から届く少し前のことです。ある夜、家には祖母と、まだ中学生のわたしの父、父の姉たちが茶の間で夕飯を食べていました。

    すると、家の外をかすかに軍靴の歩く音がして、その音は、次第に大きくなり、家の方へと向かって来たのだそうです。

    軍靴とは、陸軍の軍人が履く靴のことで、靴の裏には、たくさんの鋲が付いています。ですから、歩くたびにガチャガチャと、音を立てるのです。その音が、家の前まで来たかと思うと、突然ぴたりと止まりました。    
    
    父が、「誰か、兵隊さんが来たみたいだよ」と、祖母に言うと、その直後、玄関の引き戸がものすごい音をたててガラッ!と、開いたのだといいます。父は、祖母に、誰か来たから見て来てくれと、言われたので、茶の間から玄関へと行ってみたのですが、引き戸はいっぱいに開けられているものの、そこには誰の姿もありません。開けられた戸の向こうには、真っ暗な夜の畑が広がっているばかりだったのです。

    その後、数日たって、伯父が戦地で病死したという報告が、村役場から届き、父たちは、もしかしたら、あの時の軍靴は、伯父の魂が自宅へ戻って来た音だったのではないだろうかと、思ったそうです。

    戦後、もう一人の上の伯父は、長いシベリア抑留を経て、餓死寸前の栄養失調状態で、それでも何とか復員(日本へ帰って来ること)して来ました。

    祖母は、その後、戦死した伯父の話はほとんどしませんでしたが、八十三歳で亡くなる時、最後に言い残した言葉が、その伯父の名前だったのでした。

    

     

    ***  写真は、象牙の薔薇のチョーカーです。今は、こんな素材でアクセサリーは作れませんね。

<今日のおまけ>

    コメント欄に書き込むことの出来ない言葉に、「ファックス」があるということは、この前ブログに書きましたが、それでは、「FAX」はどうかと思い、試しにこの言葉の入ったコメントを書いてみたところ、やはり、書き直して下さいの表示が出てしまいました。

    因みに、「痴ほう症」は、受け付けてくれました。もし、「ファックスで送ります」などという文字を相手のコメント欄に書き込みたい場合は、「ファクシミリで送ります」と、した方がよいみたいですよ。icon06

    そこで、考えました。ブロガーさんの中に、コメント欄を設けていながら、ご自分は使わない方がおられるのですが、何気なく書き込んだ言葉が、不受理ワードに引っ掛かった場合、いちいち書き直すのに手間もかかるので、レスを書かれないのではないかと-----。それなら、メッセージ欄を使うなどした方が、確実ですから。

    う~ん、皆さん、色々試行錯誤でブログを書かれているんですね。face02

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Posted by ちよみ at 00:30│Comments(6)不思議な話
この記事へのコメント
私はぱちーんこがダメだったよ。

ファクシミリに直すとしたら、ぱちーんこは何と呼べばいいんだろう。玉的賭け事か?

楽天では、一文字のハンドルネームは受け付けないみたいだし、いろいろだね。
Posted by ririchi(通称りりちん) at 2009年07月15日 07:31
ririchiさまへ>

 そうですか。
 「パ」「チ」「ン」「コ」ダメでしたか。
 ホントに、なんて直したらいいんでしょうね。困りますね。
 楽天では、一文字ダメですか。わたし、かなり前に、ふくふくさんのブログコメントに、自分のハンドルネームを何故か「ち」一字で打ってしまったことがあったんですが、「ナガブロ」では、受け付けてくれました。
 これからも、何が出て来るか、スリルありますね~。
Posted by ちよみちよみ at 2009年07月15日 11:56
魂が帰ってこれたのは幸いですね
きっと伯父さんの魂ですよ。
異国でさまよう魂は 悲しいもの。
もうじき盆ですね。
美味しいものを沢山 お供えしたくなります
私も今年は新盆です。
なかなかお墓が手に入らない都会の事情がありまして
公団の墓地…なかなか当たらないようです。
Posted by り・まんぼーり・まんぼー at 2009年07月15日 15:34
り・まんぼーさまへ>

 伯父の魂だとしたら、玄関の戸をあけるというほどの現象ですから、よほど帰って来たかったに違いありませんね。
 まだ結婚もしていない二十三歳の青年です。故郷への思いは、特別だったのでしょうね。そう考えると、陸軍のエゴを容認した日本という国は、なんてひどいことをしてくれたのかと、思います。
 総理大臣の靖国神社参拝は、アジア諸国への配慮で、認められないという人たちもいますが、わたしの祖母などは、何の罪もない若者を、戦地へ送り殺した国の責任は、到底許せるものではない。総理以下、閣僚は、全員が、戦死した家族を持つ人たち全てに、土下座して回るべきだとさえ言っていました。

 り・まんぼーさんのお家も、新盆なんですね。お墓事情は、年々厳しくなって来ていますね。でも、お墓が見付からなくても、心の中で手を合わせるだけでも、充分ご供養になると聞きました。亡くなった人は、思い出してもらえるだけで、嬉しいのだそうですから。
Posted by ちよみちよみ at 2009年07月15日 16:13
不思議な話 括りを読んでいて
母の母(祖母)の話で 戦地にいるはずの息子(母の弟になります)が、庭先を歩いて玄関を開け(戸の音もして)「ただいま」と声がするので玄関まで出たら誰もいなく、数日後に戦死公報が来たそうです。
 
父が体験した話です 父実家の店で働いていた人が応召しました、戦地にいるはずのその人が忽然と店の前に立ち敬礼をしたあと立ち去ったので父(祖父も見ていて名を呼んだそうです)が直ぐ店を出て後を追ったのですが見失い、数日後に戦死公報が届いたそうです

どちらの話も、亡くなったと思われる時間にほぼ合うそうです。
ちなみに私の実体験ですが、祖母二人を見送っていますが、両方の祖母が旅立った時間、なぜか我が家の前を救急車が異様にゆっくりと通過して行きまして、直後に亡くなったと電話が来る不思議な経験をしました。
こじつけかもしれませんが、4月21日なぜかキャンディーズ以外聴きたくなかったのでキャンディーズ動画を見まくっていたら、好子様の訃報を聞きました。
Posted by DT33DT33 at 2011年06月05日 13:07
DT33さまへ>

 DT33さんのお祖母さまも、お父さまやお祖父さまも、不思議な体験をされているんですね。戦時中、遠く日本から離れた戦地で無念の死を遂げなければならなかった方々の魂は、とりわけ故郷へ帰りたいという気持ちが強かったのかもしれませんね。
 お祖母さまたちが亡くなられた時、救急車がゆっくりと通り過ぎたというのも、お祖母さまたちが最後のご挨拶に来られたのかもしれません。救急車は他の車と違い、DT33さんに気付いてもらいやすいと魂が考えたのでしょう。
 
 スーちゃんが亡くなるとは知る由もないのに、キャンディーズの動画が観たい思われたのも、たぶん、虫の知らせというものだったのでしょうね。思いが強いところへ魂は寄るとも言われますから、きっとスーちゃんはDT33さんの思いを汲んで、そっと深層心理に訴えかけて来たのかもしれません。

 別に、好物でもないのに急に食べたくなった物は、実は亡くなった人が食べたいと欲している物だといわれますから、それを食べることで、故人も喜ぶと聞いたことがあります。
 人の心や魂というものは、本当に不思議で奥の深いものですね。
Posted by ちよみちよみ at 2011年06月05日 17:29
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