大浴場の怪(前)・・・・・128
2009年08月13日
< 不 思 議 な 話 >
大 浴 場 の 怪 (前)
山の奥の旅館には、とかく幽霊やお化けの話題が付き物ですが、これもまた、そんな怖い出来事のお話です。
長野市のとある会社でOLをしている山本かおり(仮名)は、同僚の佐々木香苗(かなえ・仮名)と、短い夏休みを利用して、長野県内の山奥にある温泉旅館へ、二泊三日の小旅行に向かいました。
その温泉旅館は、パンフレットにも「信州の秘境」と、書かれているだけのことはあって、最寄りの駅からタクシーで一時間以上も走った山の中腹にあり、うっそうと生い茂る雑木林に囲まれた、実にひなびた一軒宿でした。
古くは、明治時代の有名な文士や政治家も宿泊したことがあるという老舗の名宿ではありましたが、高級ホテル志向が一般的な現代にいたっては、このような湯治場を兼ねた旅館は、もはや、宿泊客のニーズに合わないということなのか、この日の泊り客は、彼女たちの他には誰もいないという、宿の女将の説明でした。
それでも、二人は、日々の多忙な騒々しさから解放されて、旅館の二階部屋に流れ込む深山の蝉の声や、谷川のせせらぎの音を聴きながら、心からの安らぎと、身体のリフレッシュを覚えたのでした。
夜は、宿の女将自慢の山菜や川魚の素朴な料理を堪能し、やがて、かおりは、香苗に、
「あたし、ひとっ風呂浴びて来ようと思うんだけど、香苗も一緒に行かない?」
と、誘いました。しかし、香苗は、
「ううん、あたし、まだいいわ。もう少し部屋でテレビでも見ているから、かおり一人で入って来て」
と、言います。そこで、かおりは、一人浴衣に着替えて、入浴道具を抱えると、先ほど女将が教えてくれた階下の大浴場へと向かったのでした。
浴場の脱衣室で浴衣を脱ぎ、湯船のある浴場へと入ると、古びた木目が時代を感じさせる檜(ひのき)の浴槽からかけ流しの天然温泉が、おしげもなくあふれ出し、たちこめる真っ白な湯気の中に、かおりは、自らの裸身を座らせました。そして、一杯、二杯と、かけ湯をした時、ふと、自分の目の前の湯気の中に、もう一人の髪の長い女性の背中を見付けたのです。
(おかしいな?あたしの他には、脱衣棚を使っている人はいなかったはずなんだけど・・・・。先客がいたんだわ)
かおりは、そう思いながらも、せっかく、旅の宿で一緒に風呂へ入ることになったこの先客に、一応挨拶をしておこうと、彼女の後ろから声をかけました。
「こんばんは、いいお湯ですね。ご一緒に入らせて頂きますね」
「・・・・・・・・」
でも、相手は、まったく返事をしません。かおりが、不思議そうに首を傾げた時、その女性は、背中まである長い黒髪を束ねることもなく、そのまま湯船の中へ入ったので、かおりも、その女性から少し離れて湯につかりました。
女性は、髪で顔が隠れていて、かおりの所からは、その容貌は判りませんでしたが、まだ若い女性のようでした。すると、その女性の黒髪が、お湯の表面に広がるように漂うと、次第に、かおりの方へと近付いて来るような気がしました。
気味が悪くなったかおりが、慌てて湯船から出ようと立ち上がった時、その女性は、ゆっくりと、かおりの方へ首を向けたのでした。かおりは、女性の顔を見た瞬間、思わず、悲鳴を発しました。
「キャァ~~~~~ッ!!」
何と、その女性には、顔がなく、ただ耳まで裂けた大きな口だけが、真っ赤に開き、こう言ったのです。
「出てお行き!ここから、早く、出てお行き!」
その恨みがましい怒りの声を聞いたかおりは、恐怖で仰天し、転がるように脱衣室へ戻ると、濡れたままの身体に浴衣をひっかけ、必死で階段を上がり、香苗の待つ部屋まで戻ったのでした。
「香苗!!い、いま、お風呂で、化け物が-------!」
かおりは、叫びながら部屋の襖を開けて、室内へ飛び込みましたが、何故か、そこに香苗の姿がありません。
「こんな旅館には、泊まれない。香苗を探して、早くここから出て行こう」
かおりの焦りは頂点に達していました。彼女が大急ぎで服に着替え、荷物をまとめ始めた時、開けられた窓の外の方から、突然、香苗の笑い声が聞こえて来たのでした。かおりは、すぐさま窓の方へ寄り、身を乗り出すように外を見ます。
そこには、眼下の真っ暗な木立の中を、懐中電灯の灯りを頼りに、旅館の裏山へ向かう一本道をたった一人で登って行く香苗の浴衣姿が、あったのでした。
「香苗!!」
かおりは、大声で香苗の名前を呼びましたが、彼女は、まったく気付かぬ風で、まるで誰かと話をするように楽しげな声を響かせながら、歩いて行くのでした。
< つ づ く >
<今日のおまけ>
うちの電話を新しくしたところ、これまでの物と使い方が違うので、親が電話の取り方を未だによく覚えてくれない。
それでも、父親は、何とか親機から子機への転送やその逆も、最近は難なくこなせるようになったのだが、問題は母親である。親機から子機へ転送しても、その子機の取り方が判らない。
判らないというか、子機のボタン式ダイヤルの数字があまりにも小さすぎて、老眼にはよく読めないのだそうだ。
緑色の電気が付いているボタンを押せば、相手とつながると、説明しても、その緑色のボタンは、子機を充電器からはずしてしまうと、消えてしまうので、結局どれが緑色のボタンなのか判らなくなってしまうというのだ。
では、電話の受話器が離れている絵が書いてあるところを押してと、説明したのだが、そんな絵を見るのも煩わしいという。つまり、若い人たちが考える老人の使いやすい電話器などというのは、こんな程度のものなのである。
本当に、老人の使いやすいものは、おそらく老人にしか作れないのであろう。世の中には、「高齢者に優しい」などと、まことしやかに謳(うた)ってはいるが、その効力はほとんどない物が氾濫している。
もう一度、昔のような、ダイヤル式のデジタル電話という物が出来ないものだろうか?このままでは、電話がかかるたびに、わたしを呼ばなくてはならないことになるか、電話の受話器を一切取らないことになる。
頼むから、電話への出方ぐらい、覚えて下さい!!
うちの電話を新しくしたところ、これまでの物と使い方が違うので、親が電話の取り方を未だによく覚えてくれない。
それでも、父親は、何とか親機から子機への転送やその逆も、最近は難なくこなせるようになったのだが、問題は母親である。親機から子機へ転送しても、その子機の取り方が判らない。
判らないというか、子機のボタン式ダイヤルの数字があまりにも小さすぎて、老眼にはよく読めないのだそうだ。
緑色の電気が付いているボタンを押せば、相手とつながると、説明しても、その緑色のボタンは、子機を充電器からはずしてしまうと、消えてしまうので、結局どれが緑色のボタンなのか判らなくなってしまうというのだ。
では、電話の受話器が離れている絵が書いてあるところを押してと、説明したのだが、そんな絵を見るのも煩わしいという。つまり、若い人たちが考える老人の使いやすい電話器などというのは、こんな程度のものなのである。
本当に、老人の使いやすいものは、おそらく老人にしか作れないのであろう。世の中には、「高齢者に優しい」などと、まことしやかに謳(うた)ってはいるが、その効力はほとんどない物が氾濫している。
もう一度、昔のような、ダイヤル式のデジタル電話という物が出来ないものだろうか?このままでは、電話がかかるたびに、わたしを呼ばなくてはならないことになるか、電話の受話器を一切取らないことになる。
頼むから、電話への出方ぐらい、覚えて下さい!!

雪の夜の足音・・・・・319
スキー・ホテルの怪(後)・・・・・308
スキー・ホテルの怪(前)・・・・・307
クリスマス・プレゼント・・・・・297
赤ちゃんコーナー・・・・・276
ご飯は炊けるかい?・・・・・255
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クリスマス・プレゼント・・・・・297
赤ちゃんコーナー・・・・・276
ご飯は炊けるかい?・・・・・255
Posted by ちよみ at 22:48│Comments(4)
│不思議な話 Ⅱ
この記事へのコメント
ん~んと。
ある程度は機械好きだったはずの僕も、
何気に自分ンちの電話の機能を覚えるのがメンドーになってたりします…。
ある程度は機械好きだったはずの僕も、
何気に自分ンちの電話の機能を覚えるのがメンドーになってたりします…。
Posted by zuky
at 2009年08月14日 01:20

こわいですねー 早くつづきUPしてくださいね。
私の父も昔は電化製品に強かったのに
デジタルになったとたんわからなくなったようです。母は携帯電話を持っていますが
父は絶対にその携帯電話に出ません。
面倒くさいって言ってますよ。
アナログ型の電話面白いですねー。
ダイヤル回すあのドキドキ感思い出します^^* 恋のダイヤルなんとかですね・・
私の父も昔は電化製品に強かったのに
デジタルになったとたんわからなくなったようです。母は携帯電話を持っていますが
父は絶対にその携帯電話に出ません。
面倒くさいって言ってますよ。
アナログ型の電話面白いですねー。
ダイヤル回すあのドキドキ感思い出します^^* 恋のダイヤルなんとかですね・・
Posted by り・まんぼー
at 2009年08月14日 10:43

zukyさまへ>
わたしも、最近は機械の機能を覚えるのに、四苦八苦しています。
今の電話は、あまりに色々な機能がありすぎて、ほとんど使うことがないままに、買い替えるということになってしまいますね。
我が家は、留守電は全く使いませんし、住所録やメモリー機能なども、必要ありません。とにかく、相手と話ができて、親機、子機の転送が出来ればそれでいいのです。
ですから、一番シンプルな機種をと、メーカーに頼んだのですが、やはり、何やかやとプラスアルファーが付いて来るんですよね。
これからの地デジにしても、高齢者に双方向など判りませんし、正直、関係ないですね。このまま、出来れば、アナログのテレビをそのまま見ることはできないのでしょうか?他チャンネルなども、いりません。
何だか、ますます高齢者イジメの世の中になるような気がします。
わたしも、最近は機械の機能を覚えるのに、四苦八苦しています。
今の電話は、あまりに色々な機能がありすぎて、ほとんど使うことがないままに、買い替えるということになってしまいますね。
我が家は、留守電は全く使いませんし、住所録やメモリー機能なども、必要ありません。とにかく、相手と話ができて、親機、子機の転送が出来ればそれでいいのです。
ですから、一番シンプルな機種をと、メーカーに頼んだのですが、やはり、何やかやとプラスアルファーが付いて来るんですよね。
これからの地デジにしても、高齢者に双方向など判りませんし、正直、関係ないですね。このまま、出来れば、アナログのテレビをそのまま見ることはできないのでしょうか?他チャンネルなども、いりません。
何だか、ますます高齢者イジメの世の中になるような気がします。
Posted by ちよみ
at 2009年08月14日 15:37

り・まんぼーさまへ>
お読み頂き、ありがとうございます。
夏ですからね~。やはり、書きたくなってしまうんですよね。(^-^)
実は、わたしも、未だに留守電に声を入れることに抵抗感があるんですよね。何だか、照れるというか、緊張してしまって、この前は、友人の携帯の留守電に用件を吹き込んだのに、名前を言うのを忘れてしまいました。(爆)
確かに、デジタルは、味気ない気がしますね。色気もそっけもないって感じで。
お母さまは、携帯を持っておられるんですね。り・まんぼーさんのお母さまだから、まだお若いのでしょうね。
わたしは、携帯は持っていません。何となく、お父さまの気持ち、判りますね。
お読み頂き、ありがとうございます。
夏ですからね~。やはり、書きたくなってしまうんですよね。(^-^)
実は、わたしも、未だに留守電に声を入れることに抵抗感があるんですよね。何だか、照れるというか、緊張してしまって、この前は、友人の携帯の留守電に用件を吹き込んだのに、名前を言うのを忘れてしまいました。(爆)
確かに、デジタルは、味気ない気がしますね。色気もそっけもないって感じで。
お母さまは、携帯を持っておられるんですね。り・まんぼーさんのお母さまだから、まだお若いのでしょうね。
わたしは、携帯は持っていません。何となく、お父さまの気持ち、判りますね。
Posted by ちよみ
at 2009年08月14日 15:47

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