無賃乗車(前)・・・・・352
2010年01月24日
< 不 思 議 な 話 >
無 賃 乗 車(前)
定期路線バスの運転手である小山内弓子(おさないゆみこ)は、先輩運転手が定年を迎えたことで、その日から、別の路線のバスの運行業務につくことになった。
ワンマンカーのハンドルを握る弓子は、それでもそつなく病院前、スーパー前などのバス停留所を経由しながら、営業所までの道程にバスを走らせて行った。
バスの車内は、最終便とあって、乗客の数は少なく、座席にはまばらに腰掛ける四、五人がいるだけである。やがて、小学校前のバス停に停車した時、バスの後部にある乗車口から、杖をついた八十代と思しき高齢の男性が一人、乗車してきた。
老人は、手に枯れた花束を持っており、疲れた顔色で後部座席に腰をおろしていたが、バスの営業所に隣接し、終点でもある某駅の前へ到着すると、ほかの乗客たちと共に、バスを降りようとした。
しかし、他の乗客たちが定期券や回数券、現金などで乗車賃を支払い降車して行ったにもかかわらず、その老人は、まったくお金を払う素振りもみせずに、そのまま黙ってバス前方にある降車口を出て行こうとしたのであった。
弓子は、驚いて、老人に声をかける。
「おじいさん、乗車賃を払って下さい。そこの箱の中に入れてくれればいいですから-----」
しかし、老人は、皺深い顔を、一瞬おもむろに弓子の方へ向けただけで、無表情のままにバスを降りてしまった。弓子は、慌てて運転席から飛び出すと、その老人を追いかける。
「待ってくださいよ!おじいさん、無賃乗車をするつもりですか!?」
追いすがる弓子を老人は、うるさそうに睨みつけると、突然、大声で、
「お前、おれを誰だと思っているんだ!?小娘のくせに、お前、いったい年は幾つなんだ?」
今にも杖を振り上げて弓子を叩かんばかりの剣幕に、さすがに驚いた彼女は、
「わたし、こう見えても、もう二十七ですけれど-----」
答えると、老人は、ふんと、鼻で笑い、つぶやいた。
「なんだ、やっぱり、まだ小娘じゃないか。お前なんかには、おれのことは判りはしないよ」
「いったい、なんなんですか、その言い草は!?どうでもいいけど、乗車賃を払ってから好きなことを言いなさいよ」
弓子が思わずいきり立った時だった。営業所から制服を着た一人の男性が走り出して来るや、もめ続けている二人の間に分けて入った。男性は、弓子の上司の小暮(こぐれ)主任だった。
「いいんだよ、小山内君、この人は。この人からお金を頂く必要はないんだよ」
そう言いながら、小暮は、老人に対して深々とお辞儀をしながら、申し訳ありませんでしたを、連発する。その様子に、ようやく老人も腹の虫を収めたようで、苦虫をかみつぶした表情のまま、杖をつきながら立ち去って行ってしまった。
弓子は、まだ釈然としない。
その後、営業所の事務室へ戻った弓子は、先ほどの小暮の態度がどうにも不可解で、帰り支度をしている小暮を呼びとめて、問いただした。
「主任、さっきのことですが、どうして、あのおじいさんは、乗車賃がいらないんですか?会社の株主か何かなんですか?枯れたお花なんか持って-----。いったい、どういう人なんですか?」
小暮は、少し困ったような目つきで弓子を見ると、小さく首を振り、溜息をついた。
「そういうんじゃないんだよ。-----あのおじいさんが乗車して来たのは、小学校の前だったろ?」
「ええ、そうでしたが・・・・・」
「あの枯れた花は、その小学校の前のお地蔵さんにお供えしている花なんだよ。その花を、あのおじいさんは、毎日新しいものと取り換えているんだ」
「お地蔵さんのお花-----?」
弓子が訝しげに眉をひそめると、小暮は、ああ----と、頷き、
「今から、二十年ほど前だが、そのお地蔵さんのある場所で、あのおじいさんの孫娘が交通事故で亡くなったんだよ。まだ、小学校に入ったばかりの七歳だった。それで、その孫娘の供養のために、おじいさんは、あそこにお地蔵さんを立てて、毎日欠かさず、お花をお供えしているんだ。その孫娘を轢いてしまったのが、うちの社のバスだったんだ。
それからというもの、おじいさんは、慰謝料などいらないから、自分が乗るバスの運賃をすべて無料にしろと、言ってね。ああやって、毎日バスに乗って、自分の孫のことを運転手たちが、決して忘れないようにしているんだ」
と、話した。
つづく
<今日のおまけ>
わたしの老後の理想は、アガサ・クリスティーが書いた推理小説の主人公「ミス・マープル」である。(笑)
セント・メアリ・ミードの田舎に住み、次々に起きる怪事件を、甥のレイモンドの話などから鋭く推理して犯人を見つける。
何とも優雅な女性ではないだろうか。
わたしにも、頼りになりそうな(?)甥が二人いる。ミス・マープルの生き方は、理想だなァと、思うのだ。
ところで、今日はとてもいい天気でしたね。
こんな日が毎日続けばいいのですが・・・・。共同浴場へ入っていたら、ご近所の主婦から、この近くに、引き籠りになってもう十年以上という女性がいると聞きました。
女性のお母さんは毎日買い物をして、女性のために三度のご飯を作っているとのことですが、一度も部屋から出てこないのだとか。
今、巷では、30代、40代の引き籠りが増えていると言います。
わたしのように、引き籠りたくなくても籠らざるを得ない人間もいるというのに、世の中、うまくいかないものですね。
わたしの老後の理想は、アガサ・クリスティーが書いた推理小説の主人公「ミス・マープル」である。(笑)
セント・メアリ・ミードの田舎に住み、次々に起きる怪事件を、甥のレイモンドの話などから鋭く推理して犯人を見つける。
何とも優雅な女性ではないだろうか。

わたしにも、頼りになりそうな(?)甥が二人いる。ミス・マープルの生き方は、理想だなァと、思うのだ。

ところで、今日はとてもいい天気でしたね。

こんな日が毎日続けばいいのですが・・・・。共同浴場へ入っていたら、ご近所の主婦から、この近くに、引き籠りになってもう十年以上という女性がいると聞きました。
女性のお母さんは毎日買い物をして、女性のために三度のご飯を作っているとのことですが、一度も部屋から出てこないのだとか。
今、巷では、30代、40代の引き籠りが増えていると言います。
わたしのように、引き籠りたくなくても籠らざるを得ない人間もいるというのに、世の中、うまくいかないものですね。

Posted by ちよみ at 20:28│Comments(0)
│不思議な話 Ⅲ
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