~ 炎 の 氷 壁 ~ 29

 そして、さも不愉快だと言わんばかりに、薄い唇を歪めると、
 「あの厄介女、もうちょっと大人しくしていてくれれば、よかったんだ。あと、少し黙っていてくれれば、万事は丸く収まったのに・・・・」
 野田は、如何にも悔しそうな面持ちで言う。それを聞いた時任は、すかさず付言した。
 「時効ということか------?」
 「そうだよ。時効だよ。それも、確かに問題だった。十五年前は、まだ、刑事訴訟法の改正以前だから、その時起きた殺人の時効は十五年だ。あと二ケ月、たった二ケ月待てば、その時効がやって来たんだ。それなのに、あの黒鳥真琴は、わざとこの時期を見計らって、お前にプレッシャーを掛けるために姿を現したんだ。黙って、実兄(あに)の死を受け入れていれば無難に済んだ物を・・・・。身の程も弁えず、おれたちの周辺を嗅ぎまわったりして、余計な穿鑿(せんさく)をするから、あんなことになるんだ・・・・。黒鳥和也の死の真相について教えてやると、彼女の宿泊先のホテルへ匿名の電話を掛けたら、疑いもせずにのこのこやって来た。馬鹿な女だよ・・・・」
 「------あんなことになるとは、どういうことなんだ!?野田、お前、黒鳥真琴にまで、手荒なことをしたのか・・・・?」
 時任の顔色が、激しい動揺を見せて真っ赤に上気する。恐怖感にも近い驚きで、声が上擦っている。
 「・・・・・・・!?」
 木の幹の陰から、時任と野田のやり取りを聞いていた雄介も、野田の口から不意打ちの如く飛び出した言葉に、突発的に声を上げそうな衝動にかられて、慌てて自らの口をスキー手袋をはめている手で押さえた。雄介は、身体中の毛穴が開き、一気に冷や汗が噴き出すような、あまりにおぞましい感覚に襲われ、悪寒に震えた。
 まさか、野田開作は、あの黒鳥真琴までも手に掛けたのではないだろうか?一昨日、熊の湯温泉スキー場のレストハウスに黒鳥真琴が現れなかったのは、既に、その時には彼女の身柄は、野田の手のうちにあったためだったに違いない。------そんな雄介の想像が、確信に変わるのに、さほど時間はいらなかった。~ 炎 の 氷 壁 ~ 29
 時任は、なおも野田を追及する。
 「黒鳥真琴が何処にいるのか、お前は知っているんだろう?」
 「ああ、知っている。もちろんな。------しかし、たとえ時効が迫っているとしても、あの女が今更騒ぎ立てたところで、おれの完全犯罪が完璧に立証で来るものではなかっただろうが、それにしても、目障りなことには変わりない。まあ、いずれにしても、あの女の存在が、お前にとって煩わしいものである以上、排除するのが妥当な選択だと思ったんだよ。------だから、そんなに怒るなよ。すべては、お前のためなんだぞ、時任。むしろ、礼を言ってくれるのが普通だろう?」
 野田は、自分の犯罪は、あくまでも時任のために行ったものだと言い募る。時任は、ついに怒りの堰を切って叫んだ。
 「野田、貴様の言い訳を聞くのはもうたくさんだ!黒鳥真琴を何処へやった!?答えろ!」
 「そんなに興奮するなよ、時任。せっかくの美男が台無しじゃァないか。おれは、何があっても常に冷静なお前が好きなのになァ------」
 野田は、はぐらかすような冷笑を浮かべたのちに、
 「だから、ここで決着をつけようと言っているんだよ。もしも、このスノーファイトでお前が勝ったら、おれは、黒鳥真琴の居場所を教えて、地元警察の所轄署へ自首をする。お前が負けたら、今の話も彼女のこともすべて忘れて、また、元通りにお前はおれの所へ戻って来る。これが条件だ。後にも先にも、この一発勝負だ。おれには、こんな脚のハンディがあるし、決して、お前にとって悪くない条件だと思うがな」
 と、時任に挑戦状を投げた。そして、そう時間を掛けて考えている暇はないぞ。黒鳥真琴のことが本当に心配なら、早く決断した方がいいとも、判断を急かせる。
 「-------お前のその言葉、本当に信じていいんだな、野田?」
 時任が、言質(げんち)を取るように念を押すと、野田も、もちろん約束すると、真顔で深く頷く。
 「判った-------。その条件、飲もう。勝負してやる」
 そう時任が返事をした次の刹那、もう、いてもたってもいられなくなっていた雄介が、身を潜めていた木の陰からしゃにむに飛び出すと、大声で時任を止めた。
 「そんな約束しちゃダメだ、時任さん!野田が約束を守るという保証はない!彼の本心は、あんたと心中することにあるんだ。今ここで、スノーファイトをするのは、正に自殺行為なんですよ!」
 「雄介・・・・・・?」
 時任は、突然現れた雄介に、唖然と目を向ける。野田も、想定外の人間の出現に流石に戸惑いを隠さなかった。
 「時任、お前、独りで来たんじゃなかったのか?」
 野田の目には、明らかに激しい嫉妬と、時任に対する懐疑心が満ちていた。だが、それを打ち消したのは、雄介だった。
 「時任さんは、関係ない!ここへ来たのは、おれ一人の判断だ。今の話は、おれも聞かせてもらった。野田さん、あんたは、もうこれ以上逃げられやしないんだ。黒鳥真琴を何処に隠しているのか、白状しろ!」
 雄介は、止む無くレースを承諾させられた時任を、何とか翻意させようと、形振り構わずに必死で叫んでいた。


    <この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空の物ですので、ご了承下さい>


    
    ~今日の雑感~

    四月四日から八日の間に、北朝鮮が人工衛星を打ち上げる可能性が高いという情報が、世界中を駆け巡っている。本当に人工衛星なのか?それとも、テポドンと呼ばれる長距離弾道ミサイルなのか?アメリカ国防省も我が国の防衛庁も、今のところ詳細は不明とのこと。ただ、射程を決める際の発射台の角度で、その何れかがほとんど把握できるとの話ではあるが、それが判ったところで、発射を止められる訳ではないだろう。相手が、人工衛星の打ち上げであると通告している以上、日本側にどのような抑止手段があるのか、何とも心もとない限りである。それが、人工衛星にせよミサイルにせよ、日本海に展開している海自のイージス艦に迎撃を命令するという政府筋の話もあるらしいが、もしも、迎撃を試みたとしても、確実に打ち落とせる確率は極めて低いのが現状だとの専門家の意見もある。百歩譲って日本海上での迎撃に成功したとして、その撃墜片は何処に落下するのであろうか?よしんば、弾道ミサイルでなかったとしても、大気圏外へ出る前に軌道が変わり、国内へ落下などという事態も皆無とは言い切れないのだ。しかも、ここに来て、何故か北朝鮮からの韓国人の強制退去が始まっているとも、ニュースは報道している。いったい、今後何が起こるのか、世界はただ手を拱(こまね)いて注視し続けるしか術がないのだろうか?   
   下世話な話、その時、わたしたち一般庶民は、何処で何をしていればいいのか?少なくとも、その人工衛星なる物の軌道については、(落下するにしても、着弾するにしても、目標地点までの到達時間は、たった数十分のことではあるだろうが)テレビやインターネットで逐一情報を教えて欲しいものである。いずれにしても、わたしのこんなSFめいた懸念が、単なる杞憂で終わることを祈りたいものである。


   今日は、何か真面目に、国際情勢を語ってしまったなァ・・・・・。(^-^) 


同じカテゴリー(~ 炎 の 氷 壁 ~ Ⅱ)の記事
 ~ 炎 の 氷 壁 ~ 33 (2009-03-24 11:36)
 ~ 炎 の 氷 壁 ~ 32 (2009-03-23 11:11)
 ~ 炎 の 氷 壁 ~ 31 (2009-03-22 11:30)
 ~ 炎 の 氷 壁 ~ 30 (2009-03-21 10:34)
 ~ 炎 の 氷 壁 ~ 28 (2009-03-19 11:15)
 ~ 炎 の 氷 壁 ~ 27 (2009-03-18 11:21)

この記事へのコメント
こんばんは。
実際の所、弾道弾って「撃たれてからどうするか」じゃなくて「撃たせないようにする」以外に効果的な防御策はないだろうな、と思います。
だから「抑止力」って考え方が重視されるんだと思いますが。「そっちが撃つならこっちも撃つぞ」って。
その為の日米安保だと思うんですが、果たしてそれが機能するのかどうか・・・。
仮にミサイルが日本の何処かに落ちた時、アメリカが何も行動しなかったとしたら、日本はどうするのだろう?
アメリカと決別出来るのか?
日本は自立出来るのか?
実は日本は、今かなり瀬戸際に立たされているのだと思うのですが。
Posted by ま・こと at 2009年03月21日 00:04
ま・ことさんへ>

 おはようございます。
 おっしやる通り、抑止効果が大事なんですよね。相手に勝手な真似をさせないための圧力をかけておく。それが、現段階では、日米安保なんですが、こういう抑止力は、いわゆる理屈の通る国には、実に効果的に作用するのでしょうが、如何せん、あの国は、独特の感性を持っているものですから、実に厄介ですね。
 麻生さんは、それが衛星だろうが弾道弾だろうが、打ち上げた時点で戦闘行為とみなすようなことを言っていますが、打ち上がってからでは、遅いんですよね。「あ、失敗しちゃった!」---なんてことも、あるのですから。アメリカも、高価なイージス艦を買わせておいて、「あとはご自由に」では、済まされませんよね。
Posted by ちよみちよみ at 2009年03月21日 10:49
お久しぶりです。どきどきしながら読ませていただいてます。
いつも思うのですが長編書くのってすごいですよね。私はムリだ・・・。小6の時、修学旅行の旅行記、原稿用紙100枚というとんでもない課題がありました。たくさん、パンフレットや地図を張り付けて誤魔化した覚えがあります・・・。
実際、大人でも100枚なんて大変だと思うんですが。ちなみに私の通っていた小学校は開智小です・・・。
明日から仕事ですので携帯で読ませていたただきますね。楽しみにしています。
Posted by ティンク at 2009年03月21日 18:31
ティンクさんへ>

 こんばんは。
 コメントありがとうございます。
 小学生に原稿用紙100枚は、すごいですね!まるで、大学生の卒業論文並です。パンフレットや地図を貼り付けたとはいえ、よく書かれました。開智小学校は、よほど優秀な児童の方たちの学び舎なのですね。
 実は、この~炎の氷壁~も、400字詰め原稿用紙ですと、ほぼ100枚なのです。
 長編は、短編よりもダラダラと書けるので、あれもこれも書きたいと、思ってしまうわたしには、むしろあっているのかもしれませんが、それでも、最近は先に書いたことがうろ覚えになってしまうこともあり、読み返しては続けるのが大変です。(~_~;)
 ティンクさんのブログは、いつも読み応えがあって、とても楽しみです。写真も素晴らしいですね。❤
 こちらこそ、今後とも、よろしくお願いいたします!
Posted by ちよみちよみ at 2009年03月21日 20:37
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。