女与力・永倉勇気 捕物控 ⑱

 蕪木半兵衛の見栄っ張りな性格から考えて、たぶん、卑俗の陰間(かげま)を相手にすることはないであろうと踏んだ高島は、蕪木殺害の動機も、よく言う痴情の縺れとやらに相違ないと独断し、
 「もはや、ここから先の捜査は、永倉さんの手を煩わせる必要もなかろうと存じますので、あとは我らに任せ、高みの見物でもしていて下さい」
 そう告げると、料亭の玄関前に待機させておいた、自らの私的配下である定町廻り同心付御用聞(岡っ引)たちを連れて、勇んで陰間探索に乗り出して行った。
 一方、勇気は、そんな高島の言動には委細頓着なく、一昨夜に蕪木と連れの客の二人が使用した座敷を見せて欲しいと、女将(おかみ)に頼み込んだ。
 女将が、勇気と清太郎を案内した座敷は、料亭一階の最も奥にある、こぢんまりとした六畳間で、縁側があり、周囲に生垣を巡らした裏庭に面している、閑静な部屋であった。生垣の継ぎ目に設けられている竹で編まれた矢来戸(やらいど)からは、人目を忍ぶ者たちがこっそりと、裏通りへ抜けられるようになっているのも、高級料亭ならではの配慮というものなのであろう。
 そこで、勇気は、女将に向かい再度念を押す。
 「女将が見た蕪木与力の連れの客は、本当に女だったんだね?」
 女将は、この問いかけに、絶対間違いありませんと、頷き、座敷へ料理を運んだ仲居も、また、
 「お連れ様のお顔までは、しげしげと見た訳ではありませんが、御高祖頭巾(かぶりもの)を取られた姿は、島田髷(しまだまげ)も美しい武家のお女中のものでした」
 と、こちらも、女将に右へ倣えで、口を揃える。しかも、それに付け加えて、女与力・永倉勇気 捕物控 ⑱
 「わたしの目に、狂いはございません」
 とも、長年にわたる客商売の経験を自負した。
 「なるほどね------」
 勇気は、小さく合点しながら、今度はその座敷と縁側でつながっている隣の納戸部屋の中も、ついでに見せてもらいたいと、女将に頼む。
 「どうぞ、ご存分にお調べ下さいな」
 女将の口調は、ほとんど投げやりであったが、勇気は、そんなことには構わずに、さっさと納戸部屋へ入った。
 そして、座布団などが几帳面に積み上げてある、その薄暗く狭い部屋の中で、いきなり、床板に這いつくばったかと思うと、床の上を舐めるようにして、丹念に何かを調べ出した。
 「勇さん、何をしているんですか・・・・?」
 納戸部屋の外の縁側で待っていた清太郎は、勇気の行動の理由が判らず、怪訝そうに声を掛ける。が、勇気は、それには即応せずに、しばらくその動作を続けたのち、やや経ってから、ようやく満足げな笑みを浮かべながら、納戸部屋から出て来ると、そこに立っていた清太郎に、
 「納戸(なか)で、面妖なものを見付けたよ」
 と、言いつつ、きちんと折りたたまれた手拭の上に置いたそれを見せた。
 その手拭の上にあったものは、昨朝、勇気が、蕪木半兵衛の死体の前襟合わせの間から摘み出した、あのごく小さな淡緑色の花びらとまったく同じ二枚の花弁であった。



   
    ~今日の雑感~

    ブログというものは、私見の主張の場であるとともに、一種のうっぷん晴らしの場でもありますので、日頃気持ちに蟠(わだかま)っていたり、憤りを覚えていたことなどを、つい思いのままに書き綴ってしまうことがあります。でも、それを一通り書いてアップしてしまうと、意外にこれまでの溜飲が下がり、気持ちの整理もついて、書いた当人は、そんなことなど半ばどうでもよくなってしまうこともあるようです。
    ところが、今度、そのブログ記事を読んだ方では、「そうそう、確かに自分にもこれと同じことがあった。本当に腹が立ったものだが、自分と同じことを考えていた人が他にもいたのか」と、そのブログ記事に同感し、つい「その通りだ。よく言ってくれた」と、コメントを寄せてしまう訳です。
    しかし、当のブログを書いた本人は、書き込んだことで自分の気持ちは和らいでいるものですから、そのコメントに対しての返事に、「確かに、そうは書いたが、そこまでの憤懣があって書いた訳ではない。そういうケースもあるという大雑把な意味で書いただけで、そんなケースばかりではないと思う」などと、当初に比べてかなりテンションの低い返信になってしまう場合もあるようです。
    そうなると、「じゃァ、同感コメントを書き込んだブロガーの方の立場はどうしてくれるのか?」と、いうことになってしまう訳で、これは、ある意味、コメントを寄せた者への侮辱にもなりかねない行為と言えます。実際、ある人のブログに、同感と励ましのコメントを書き込んでいたブロガーへの返事が、「ブログには、そう書いたが、やはり自分の考えは間違っていたような気がする」と、いうことで、コメントを書いた方のブロガーが、「自分に対する背信だ!」と、憮然としたコメントを再び書き込んでいたものも目にしました。
    ブログの記事とコメントは、原則同義性がなくてはならないと、わたしは思います。ブログと返信コメントが一貫せず、ぐらつくようでは、コメントを書き込むこと自体が賭けとなってしまい、これでは、安心してそのブログにコメントを書き込むことなど出来なくなってしまいます。もしも、ブログ記事の内容が、今の自分の気持ちとは少しばかり違っていたとしても、返信コメントには「そこまでは、思っていなかった」などというような、無責任な返事はしない------それが、コメント受信設定をしているブロガーの、最低限のマナーではないかと思います。


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