女与力・永倉勇気 捕物控 21
2009年04月22日
蕪木半兵衛殺害を自供した陰間・菊乃(きくの)が留置されている、神田佐久間町の大番屋へと出向いた勇気と清太郎は、ただちに大番屋の役人に、菊乃との面会を申し入れた。やがて、面会が許可されるや、そこの牢役人に頼んで、速やかに菊乃を留置している牢から引き出させると、その場で訊問を開始した。
「栄屋善二郎が抱えの陰間・菊乃-----いや、小石川の蘭方医・坂口方義の診療所において診療助手をしていた医者見習いの菊村一馬(きくむらかずま)。お前が、坂口方義の一人娘の百合(ゆり)の犯行を、自らがしたことと偽り、庇い立てしていることは判っているのだ。今から、きっちりと本当のことを吐いてもらうから、神妙に答えよ」
半ば威嚇するような勇気の言葉に、陰間は、その未だ化粧を施したままの匂いやかな面(おもて)を一瞬凍り付かせて、眼前にある女与力の冷徹な双眸を覗き込んだ。
勇気は、更に間を置かず、
「坂口方義が娘・百合は、四日前の夜、北町奉行所付町々高積改役与力の蕪木半兵衛と、何処ぞで落ち合い、二人して、一年ほど前に一度蕪木与力が一人の町医者風の男------この男は、おそらく坂口方義だったと思われるが、その男と共に訪れたことのある神田明神近くの料亭・千両へ赴き、遅い夕餉(ゆうげ)を取った。食事が済んだところで、百合は、父親が研究の末に作り出した河豚毒の丸薬に、自らの手で飴の表面加工を施した猛毒を、何らかの方法で心の臓の薬と見せかけて蕪木与力に飲ませた。------それが真相だったのではないのかな?」
「・・・・・・・・」
薄暗い留置牢の一角で、筵(むしろ)の上に端座し、化粧を刷いた妖艶な顔を俯けながら聞く、菊乃は、唇を真一文字に結んだきり、じっと黙したままである。
しかし、勇気は、そんな菊乃の反応にはお構いなしに、更なる自論を語り続ける。
「------が、そんな二人の様子の一部始終を、縁側に面した明かり障子を開け放した座敷の外の、暗い生垣の陰から見ていた者がいる。お前だよ、菊村一馬。お前は、恩師の娘の行動に不審を懐き、百合のあとを尾行(つけ)て来たものの、その犯行現場を目撃し、咄嗟に、自らが、百合の身代わりとなることを思い付いた。その後、蕪木与力が厠へ立つなどして一時座敷を開けたところを見計らったお前は、急いで百合を座敷の隣の納戸部屋へ引き入れ、百合に言い含めて、互いの着ている物を取り替えると、百合を裏庭から表へ逃がし、自身は百合が着けて来た御高祖頭巾で顔を覆って娘になり済ました。
その時、お前か百合のどちらかの身体に付いていた、淡い緑色をした花びらが、納戸部屋の床に落ちた。これと同じ花びらは、殺害された蕪木与力の死体にも付いていた。そして、ちょうど、陰間島田の髷(わげ)を結っていたお前は、なから酔いも回っていた蕪木与力にさえすり替わりを気付かれることなく、共に料亭を出て、その際、無言のまま、故意に料亭の板前と身体を接触させた。蕪木与力の連れの客は、実は女ではなかったのだという印象を、何らかの形で残しておく必要があったからだ。とはいえ、声を出したのでは、蕪木与力にもすり替わりが露見するばかりか、陰間茶屋・栄屋の常客でもある蕪木与力に、己が陰間の菊乃であることが知れてしまう。それでは、あとが面倒だからな。
こうして、お前は、料亭から出た直後に蕪木与力と別れ、それからしばらく経って、昌平橋まで歩いて来た蕪木与力は、酒屋・内田屋の横手の小路で、独り息絶えたという訳だ。
そして、お前の目論見通りに、我々捜査陣は、料亭・千両の板前の証言から、お前に目星を付けて捕縛した。だが、八丁堀役人を甘く見るなよ。一年前、蕪木半兵衛と坂口方義の間に、いったい何があったのだ?それに、娘の坂口百合は、今何処にいるのだ?菊乃-----いや、菊村一馬、お前には、すべて判っているはずだ。違うか!?」
勇気は、傍らで聞く清太郎さえもが驚きを隠せないほどの事件の顛末を推述しながら、無言の菊乃に、殊更激しく詰め寄った。
~今日の雑感~
先日、我が家に、変な電話がかかって来ました。
「お宅に、イカを送ったので、すぐに代金を支払ってくれ」と、いう電話です。「うちは、そんな物、頼んでいませんけれど・・・・」と、返事をしますと、「パソコン持っているでしょう?それで頼んだじゃないですか」と、言います。
「いいえ、何も頼んではいません。もしも、送ったというのなら、何処へ送ったのか、住所を言って下さい
」と、こちらが言ったところ、相手は、急に黙ってしまいました。そして、しばらくして、「〇〇県の〇〇市へ送った----」と、言うのですが、そんな住所は、もちろん、わたしの家とは全くお門違いの場所です。
「うちは、そんな所にはありません!
」そう言って、こちらから電話を切りました。
これも、一種の「振り込め詐欺」ですよね。最近は、手口も様々なものになって来て、ちょっと聞いただけでは、それとは判らないものまで出て来たようです。知り合いの理容師さんのお宅では、息子さんの名前を騙(かた)った人間から、「交通事故を起こしたので、賠償金を払わねばならず困っている。すぐに、金を振り込んでくれ」と、いう電話がかかって来たので、「もう一度、名前を言ってくれ」と、返事をしたら、何と、息子さんと一文字違いの名前を答えたのだとか。「危うく騙されるところだった」と、冷や汗を拭いたそうです。
こういう電話がかかって来た時は、とにかく、いったん時間を置いて、冷静になることが肝心だと思いました。一分一秒を争ってお金が必要となることなど、そうそうある訳がないのですから。
「栄屋善二郎が抱えの陰間・菊乃-----いや、小石川の蘭方医・坂口方義の診療所において診療助手をしていた医者見習いの菊村一馬(きくむらかずま)。お前が、坂口方義の一人娘の百合(ゆり)の犯行を、自らがしたことと偽り、庇い立てしていることは判っているのだ。今から、きっちりと本当のことを吐いてもらうから、神妙に答えよ」
半ば威嚇するような勇気の言葉に、陰間は、その未だ化粧を施したままの匂いやかな面(おもて)を一瞬凍り付かせて、眼前にある女与力の冷徹な双眸を覗き込んだ。
「坂口方義が娘・百合は、四日前の夜、北町奉行所付町々高積改役与力の蕪木半兵衛と、何処ぞで落ち合い、二人して、一年ほど前に一度蕪木与力が一人の町医者風の男------この男は、おそらく坂口方義だったと思われるが、その男と共に訪れたことのある神田明神近くの料亭・千両へ赴き、遅い夕餉(ゆうげ)を取った。食事が済んだところで、百合は、父親が研究の末に作り出した河豚毒の丸薬に、自らの手で飴の表面加工を施した猛毒を、何らかの方法で心の臓の薬と見せかけて蕪木与力に飲ませた。------それが真相だったのではないのかな?」
「・・・・・・・・」
薄暗い留置牢の一角で、筵(むしろ)の上に端座し、化粧を刷いた妖艶な顔を俯けながら聞く、菊乃は、唇を真一文字に結んだきり、じっと黙したままである。
しかし、勇気は、そんな菊乃の反応にはお構いなしに、更なる自論を語り続ける。
「------が、そんな二人の様子の一部始終を、縁側に面した明かり障子を開け放した座敷の外の、暗い生垣の陰から見ていた者がいる。お前だよ、菊村一馬。お前は、恩師の娘の行動に不審を懐き、百合のあとを尾行(つけ)て来たものの、その犯行現場を目撃し、咄嗟に、自らが、百合の身代わりとなることを思い付いた。その後、蕪木与力が厠へ立つなどして一時座敷を開けたところを見計らったお前は、急いで百合を座敷の隣の納戸部屋へ引き入れ、百合に言い含めて、互いの着ている物を取り替えると、百合を裏庭から表へ逃がし、自身は百合が着けて来た御高祖頭巾で顔を覆って娘になり済ました。
その時、お前か百合のどちらかの身体に付いていた、淡い緑色をした花びらが、納戸部屋の床に落ちた。これと同じ花びらは、殺害された蕪木与力の死体にも付いていた。そして、ちょうど、陰間島田の髷(わげ)を結っていたお前は、なから酔いも回っていた蕪木与力にさえすり替わりを気付かれることなく、共に料亭を出て、その際、無言のまま、故意に料亭の板前と身体を接触させた。蕪木与力の連れの客は、実は女ではなかったのだという印象を、何らかの形で残しておく必要があったからだ。とはいえ、声を出したのでは、蕪木与力にもすり替わりが露見するばかりか、陰間茶屋・栄屋の常客でもある蕪木与力に、己が陰間の菊乃であることが知れてしまう。それでは、あとが面倒だからな。
こうして、お前は、料亭から出た直後に蕪木与力と別れ、それからしばらく経って、昌平橋まで歩いて来た蕪木与力は、酒屋・内田屋の横手の小路で、独り息絶えたという訳だ。
そして、お前の目論見通りに、我々捜査陣は、料亭・千両の板前の証言から、お前に目星を付けて捕縛した。だが、八丁堀役人を甘く見るなよ。一年前、蕪木半兵衛と坂口方義の間に、いったい何があったのだ?それに、娘の坂口百合は、今何処にいるのだ?菊乃-----いや、菊村一馬、お前には、すべて判っているはずだ。違うか!?」
勇気は、傍らで聞く清太郎さえもが驚きを隠せないほどの事件の顛末を推述しながら、無言の菊乃に、殊更激しく詰め寄った。
~今日の雑感~
先日、我が家に、変な電話がかかって来ました。

「お宅に、イカを送ったので、すぐに代金を支払ってくれ」と、いう電話です。「うちは、そんな物、頼んでいませんけれど・・・・」と、返事をしますと、「パソコン持っているでしょう?それで頼んだじゃないですか」と、言います。
「いいえ、何も頼んではいません。もしも、送ったというのなら、何処へ送ったのか、住所を言って下さい

「うちは、そんな所にはありません!

これも、一種の「振り込め詐欺」ですよね。最近は、手口も様々なものになって来て、ちょっと聞いただけでは、それとは判らないものまで出て来たようです。知り合いの理容師さんのお宅では、息子さんの名前を騙(かた)った人間から、「交通事故を起こしたので、賠償金を払わねばならず困っている。すぐに、金を振り込んでくれ」と、いう電話がかかって来たので、「もう一度、名前を言ってくれ」と、返事をしたら、何と、息子さんと一文字違いの名前を答えたのだとか。「危うく騙されるところだった」と、冷や汗を拭いたそうです。
こういう電話がかかって来た時は、とにかく、いったん時間を置いて、冷静になることが肝心だと思いました。一分一秒を争ってお金が必要となることなど、そうそうある訳がないのですから。

また、午後三時近くになってかかってきた電話は、要注意だそうです。午後三時は、銀行の窓口業務が終了する時間だということは周知されているので、振り込みを焦らせて、判断力を奪うには、持ってこいの時間帯なのだそうですから。
Posted by ちよみ at 23:46│Comments(4)
│女与力・永倉勇気 捕物控
この記事へのコメント
オレオレ詐欺、娘の彼氏の家にも電話がかかってきたそうです。会社のお金を使い込んで、云々と。その詐欺師の演技力が素晴らしいんですって。お母さんは、「感動すら覚えた」と言ってました。
Posted by ririchi at 2009年04月23日 00:04
ririchiさまへ>
こんばんは。
お嬢さんの善光寺でのお写真拝見しました。素敵なスリーショットですね。彼氏さんも格好良くて、若いっていいなァ・・・と、思いました。(^u^)
詐欺師は、その彼氏さんになりすまして、電話をかけて来たんですね。でも、お母さま、肝っ玉が座っておられましたね。それだけ冷静だったということですね。泣き声だけでも、騙されてしまう人が多いといいますから。
そして、ついこちらの方から、「〇〇か?」と、名前を呼ぶように仕向けるのも、手口の一つだと聞きます。
本当に、物騒な世の中になって来ましたね。(-_-;)
こんばんは。
お嬢さんの善光寺でのお写真拝見しました。素敵なスリーショットですね。彼氏さんも格好良くて、若いっていいなァ・・・と、思いました。(^u^)
詐欺師は、その彼氏さんになりすまして、電話をかけて来たんですね。でも、お母さま、肝っ玉が座っておられましたね。それだけ冷静だったということですね。泣き声だけでも、騙されてしまう人が多いといいますから。
そして、ついこちらの方から、「〇〇か?」と、名前を呼ぶように仕向けるのも、手口の一つだと聞きます。
本当に、物騒な世の中になって来ましたね。(-_-;)
Posted by ちよみ
at 2009年04月23日 00:26

オレオレ詐欺が世の中にデビューして、間もない頃、うちにもかかってきました。
主人の名前をかたってきたので、電話帳でも見てかけたものと思われます。
相手にしませんでしたが、今思えば、色々きき出して、逮捕に協力お手柄主婦!てのも、ありだったんかな?
でも、後で仕返しされても恐いし、若いもん、ちゃんと働け!と説教したくなります。
主人の名前をかたってきたので、電話帳でも見てかけたものと思われます。
相手にしませんでしたが、今思えば、色々きき出して、逮捕に協力お手柄主婦!てのも、ありだったんかな?
でも、後で仕返しされても恐いし、若いもん、ちゃんと働け!と説教したくなります。
Posted by simarisu
at 2009年04月23日 21:30

simarisuさまへ>
simarisuさんのお宅には、ご主人を装って電話をして来たのですか。でも、「オレ」ではなく、名前を告げてとなりますと、かなり、リサーチしてのことですね。
それを、冷静に別人だと判断されて---。 本当に、警察に通報していれば、お手柄主婦で表彰物でしたね。
ところで、これからは、新たに、給付金詐欺が急増するのではないかとのニュースもあります。また、こういう「オレオレ詐欺」が、横行するのでしょうか?心配です。
そんな姑息な手段で金銭を手に入れても、気持ちの良い使い方は出来ないと思うのですがね・・・。お金は、まっとうに稼いでもらいたいものです。
simarisuさんのお宅には、ご主人を装って電話をして来たのですか。でも、「オレ」ではなく、名前を告げてとなりますと、かなり、リサーチしてのことですね。
それを、冷静に別人だと判断されて---。 本当に、警察に通報していれば、お手柄主婦で表彰物でしたね。
ところで、これからは、新たに、給付金詐欺が急増するのではないかとのニュースもあります。また、こういう「オレオレ詐欺」が、横行するのでしょうか?心配です。
そんな姑息な手段で金銭を手に入れても、気持ちの良い使い方は出来ないと思うのですがね・・・。お金は、まっとうに稼いでもらいたいものです。
Posted by ちよみ
at 2009年04月23日 22:54

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。