~ 炎 の 氷 壁 ~ ⑲
2009年03月08日
雄介に、そんな尊敬と羨望の眼差しを向けられつつも、時任は、腰に巻いたホルダーベルトから携帯無線通話機(トランシーバー)を取り出すと、横手山スカイパークスキー場のスキーパトロール本部へ、横手山から渋峠スキー場へ向かう山岳林間コースで、病人が出た旨の連絡を入れる。
「-------至急、応援のパトロール員をよこして下さい。患者の容態は現在のところ安定しているものの、自力での下山は困難と思います。一応、病院への搬送が必要と判断しますので、救急車の手配をお願いします」
時任の応援要請から約十分後、近くを巡回していた別の同僚スキーパトロール員二名が現場へと到着し、その若い男性スキーヤーに付き添う形で、麓のスキー場へと滑り去って行った。
雄介が、ようやくそこで、安堵の胸を撫で下ろすのを見計らったかのように、時任が、やおら口を開いた。
「ところで、今朝の話の続き何だが-------」
そら、来たと、雄介は思わず内心に身構える。そのことを切り出されるのは、時任とのパトロールに同行した以上、先刻から覚悟はしていたが、いざ言及されてみると、昨夜見たあのおぞましいとも思える光景が、フラッシュバックの如く脳裏によみがえり、それでも、時任のことを信頼したいと思う率直な気持ちとが複雑に入り乱れる雄介の頭の中は、慌ただしく混乱した。そうはいっても、やはり、時任に隠し事をしながらのパトロール勤務は、何処か後ろめたさも感じてはいる。
そこで雄介は、自分の心情や考にえは一切言及することなく、昨夜その目で見、耳で聞いたことだけを、そのまま率直に時任へ伝えようと、決心した。そして、気持の平静を装いつつ、あくまでも淡々と一部始終を語り終えたところで、
「-------時任さんに対する野田さんの気持ちは、おれたち第三者には理解し難いほど深いものがあるようですから、おれのような部外者があなたのそばにいることは、あなた方二人の関係にとってあまり良い影響を及ぼすとは思えない。だから、おれは、横手山ロッジを出ることにしたんです。でも、パトロールの仕事は、これまで通りあなたと一緒にやらせて頂きますから、その点は心配しないで下さい。おれ、この仕事、嫌いじゃァありませんから」
と、努めてさばさばとした口調で、もはや、懸念には及ばないということを精一杯アピールした。だが、雄介の期待とは裏腹に、その話を聞いた時任の顔は、たちまち暗渋に曇ると、固く唇を噛み締めたまま俯いてしまった。そのまま、しばらく沈黙していた時任だったが、ようやく気持ちの整理が付いたものか、ゆっくりと雄介の方ヘ頭(こうべ)を巡らすと、静かな声で言った。
「そういうことだったのか・・・・。不快な思いをさせてしまったな。昨夜(ゆうべ)、そんなことがあったなんて、全く気付かずに眠っていた。野田が言っていたという言葉の意味は、おれにもどういうことなのかよく判らないが、たぶん、お前にも話した高校三年の時に起きた山での事故のことが関係しているのだと思う。高校三年の夏休みに、おれは野田と二人で、志賀高原の岩菅山(いわすげやま)への登山をしたのだが、その際野田が左脚を負傷し、おれが、彼を背負って下山したことを言っていたのだと思う。しかし、それにしても、そのことと、『悪魔に魂を売リ渡す』などという言葉が、どうして結びつくのか・・・・?」
そう言うと、時任は、またもや考え込んでしまった。雄介は、そんな時任に、
「もう、いいですよ。今回のことは、おれが勝手に臍(へそ)を曲げちまったことですから、考えてみれば、時任さんにも野田さんにも非がある訳じゃァない。要するに、おれの我儘(わがまま)なんです。余計な気を遣わせてしまって、詫びなきゃならないのは、むしろおれの方なんですよ」
と、頭を下げた。すると、時任は、小さく首を横に振り、いいや、お前の反応は、ごくまともだよと、付け加える。そして、
「しかし、誤解しないで欲しい。おれにとっての野田は、確かに親友ではあるが、それ以上の特別な存在という訳ではないし、もしも、野田(あいつ)が、お前に何か理不尽な態度をとったというのなら、おれは、それを許すつもりもない」
「理不尽な態度なんて--------、そんなことはありませんよ」
雄介は、慌てて否定してから、大仰なほどに明るい声で、
「------もう、この話は、よしにしましょう!」
弾けるように言い放った時であった、時任の腰のホルダーに納められていた携帯無線機が、緊急連絡を入れて来た。時任がこれに応じると、神崎パトロール員の声で、今すぐスキーパトロール本部まで戻って来て欲しいと言う。時任が、何か緊急事態でも起きたのかと訊ね返すと、神崎からの返答は、横手山管区内で、行方不明者捜索要請の事案が発生したので、非常呼集をかけたというものであった。
「了解。即時、帰塔します」
時任は、応答すると、雄介とともにパトロール本部への帰途に就いた。
<この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空の物ですので、ご了承下さい>
~今日の雑感~
少し遠くのスーパーへ買い物に行く時って、汚れてもいいものなんだけれど、それなりに小奇麗な格好をして行く方がいいかな?なんて、毎度のことながら、ちょっと悩みます。特に、こんな春先は、もうオーバーの類ではうっとおしいし、そうかといって、セーター一枚では、何だかうすら寒いし、それではジャケットでも羽織ればとも思うのですが、いつもの決まり切った格好になってしまい何とも芸がありません。そこで、クローゼット(こう言えば格好はいいが、ほとんどタンスです)の中を捜したところ、手頃なオレンジ系のベストを発見。「よし、これで決まり!」と、自家用車(十年以上も乗っているボロい軽自動車)でスーパーへ。
一通り、スーパーのかごに商品を入れ、さて、レジへ。すると、不思議なことに、そのレジ係のお姉さんがやたらに親切なんです。愛想笑いまで浮かべて、代金を払った後に、一言、「本当に、ご苦労さまですねェ。がんばってくださいね」なんて言葉までかけて下さって。「・・・・・????」何なんだ?この異様な優しさは------?しかも、いったい何をがんばればいいんだ?と、首を傾げながら、スーパーの外へ。そこで、見た光景は、下水管の敷設工事をするおじさんたちの勇姿。その人たちが着ている職人用のワーキングベストが、わたしの着ているものとよく似ていた訳で。どうやら、スーパーのレジ係のお姉さんは、わたしもその工事担当者の一人だと勘違いをしたようです。そうか、それじゃァ、次はヘルメットでも被って行ったらもう完璧!今度は、どんな親切をしてくれるのかな? (((^-^)))ワクワク・・・(この書き方、まるなすさんの受け売りです)

「-------至急、応援のパトロール員をよこして下さい。患者の容態は現在のところ安定しているものの、自力での下山は困難と思います。一応、病院への搬送が必要と判断しますので、救急車の手配をお願いします」
時任の応援要請から約十分後、近くを巡回していた別の同僚スキーパトロール員二名が現場へと到着し、その若い男性スキーヤーに付き添う形で、麓のスキー場へと滑り去って行った。
雄介が、ようやくそこで、安堵の胸を撫で下ろすのを見計らったかのように、時任が、やおら口を開いた。
「ところで、今朝の話の続き何だが-------」
そら、来たと、雄介は思わず内心に身構える。そのことを切り出されるのは、時任とのパトロールに同行した以上、先刻から覚悟はしていたが、いざ言及されてみると、昨夜見たあのおぞましいとも思える光景が、フラッシュバックの如く脳裏によみがえり、それでも、時任のことを信頼したいと思う率直な気持ちとが複雑に入り乱れる雄介の頭の中は、慌ただしく混乱した。そうはいっても、やはり、時任に隠し事をしながらのパトロール勤務は、何処か後ろめたさも感じてはいる。
そこで雄介は、自分の心情や考にえは一切言及することなく、昨夜その目で見、耳で聞いたことだけを、そのまま率直に時任へ伝えようと、決心した。そして、気持の平静を装いつつ、あくまでも淡々と一部始終を語り終えたところで、
「-------時任さんに対する野田さんの気持ちは、おれたち第三者には理解し難いほど深いものがあるようですから、おれのような部外者があなたのそばにいることは、あなた方二人の関係にとってあまり良い影響を及ぼすとは思えない。だから、おれは、横手山ロッジを出ることにしたんです。でも、パトロールの仕事は、これまで通りあなたと一緒にやらせて頂きますから、その点は心配しないで下さい。おれ、この仕事、嫌いじゃァありませんから」
と、努めてさばさばとした口調で、もはや、懸念には及ばないということを精一杯アピールした。だが、雄介の期待とは裏腹に、その話を聞いた時任の顔は、たちまち暗渋に曇ると、固く唇を噛み締めたまま俯いてしまった。そのまま、しばらく沈黙していた時任だったが、ようやく気持ちの整理が付いたものか、ゆっくりと雄介の方ヘ頭(こうべ)を巡らすと、静かな声で言った。
「そういうことだったのか・・・・。不快な思いをさせてしまったな。昨夜(ゆうべ)、そんなことがあったなんて、全く気付かずに眠っていた。野田が言っていたという言葉の意味は、おれにもどういうことなのかよく判らないが、たぶん、お前にも話した高校三年の時に起きた山での事故のことが関係しているのだと思う。高校三年の夏休みに、おれは野田と二人で、志賀高原の岩菅山(いわすげやま)への登山をしたのだが、その際野田が左脚を負傷し、おれが、彼を背負って下山したことを言っていたのだと思う。しかし、それにしても、そのことと、『悪魔に魂を売リ渡す』などという言葉が、どうして結びつくのか・・・・?」
そう言うと、時任は、またもや考え込んでしまった。雄介は、そんな時任に、
「もう、いいですよ。今回のことは、おれが勝手に臍(へそ)を曲げちまったことですから、考えてみれば、時任さんにも野田さんにも非がある訳じゃァない。要するに、おれの我儘(わがまま)なんです。余計な気を遣わせてしまって、詫びなきゃならないのは、むしろおれの方なんですよ」
と、頭を下げた。すると、時任は、小さく首を横に振り、いいや、お前の反応は、ごくまともだよと、付け加える。そして、
「しかし、誤解しないで欲しい。おれにとっての野田は、確かに親友ではあるが、それ以上の特別な存在という訳ではないし、もしも、野田(あいつ)が、お前に何か理不尽な態度をとったというのなら、おれは、それを許すつもりもない」
「理不尽な態度なんて--------、そんなことはありませんよ」
雄介は、慌てて否定してから、大仰なほどに明るい声で、
「------もう、この話は、よしにしましょう!」
弾けるように言い放った時であった、時任の腰のホルダーに納められていた携帯無線機が、緊急連絡を入れて来た。時任がこれに応じると、神崎パトロール員の声で、今すぐスキーパトロール本部まで戻って来て欲しいと言う。時任が、何か緊急事態でも起きたのかと訊ね返すと、神崎からの返答は、横手山管区内で、行方不明者捜索要請の事案が発生したので、非常呼集をかけたというものであった。
「了解。即時、帰塔します」
時任は、応答すると、雄介とともにパトロール本部への帰途に就いた。
<この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空の物ですので、ご了承下さい>
~今日の雑感~
少し遠くのスーパーへ買い物に行く時って、汚れてもいいものなんだけれど、それなりに小奇麗な格好をして行く方がいいかな?なんて、毎度のことながら、ちょっと悩みます。特に、こんな春先は、もうオーバーの類ではうっとおしいし、そうかといって、セーター一枚では、何だかうすら寒いし、それではジャケットでも羽織ればとも思うのですが、いつもの決まり切った格好になってしまい何とも芸がありません。そこで、クローゼット(こう言えば格好はいいが、ほとんどタンスです)の中を捜したところ、手頃なオレンジ系のベストを発見。「よし、これで決まり!」と、自家用車(十年以上も乗っているボロい軽自動車)でスーパーへ。
一通り、スーパーのかごに商品を入れ、さて、レジへ。すると、不思議なことに、そのレジ係のお姉さんがやたらに親切なんです。愛想笑いまで浮かべて、代金を払った後に、一言、「本当に、ご苦労さまですねェ。がんばってくださいね」なんて言葉までかけて下さって。「・・・・・????」何なんだ?この異様な優しさは------?しかも、いったい何をがんばればいいんだ?と、首を傾げながら、スーパーの外へ。そこで、見た光景は、下水管の敷設工事をするおじさんたちの勇姿。その人たちが着ている職人用のワーキングベストが、わたしの着ているものとよく似ていた訳で。どうやら、スーパーのレジ係のお姉さんは、わたしもその工事担当者の一人だと勘違いをしたようです。そうか、それじゃァ、次はヘルメットでも被って行ったらもう完璧!今度は、どんな親切をしてくれるのかな? (((^-^)))ワクワク・・・(この書き方、まるなすさんの受け売りです)
Posted by ちよみ at 11:04│Comments(2)
│~ 炎 の 氷 壁 ~ Ⅱ
この記事へのコメント
ご無沙汰しております。
訳合って比呂ブログを閉じてしまいました。
一身上の都合です。
ちよみさんは最初から最後まで唯一の読者で感謝しております。
時々パソコンを開いてはちよみさんの小説を読ませていただきたいと思います。
ヘルメット姿・・・(爆)。
これからもちよみさんの活躍、期待します。
比呂
訳合って比呂ブログを閉じてしまいました。
一身上の都合です。
ちよみさんは最初から最後まで唯一の読者で感謝しております。
時々パソコンを開いてはちよみさんの小説を読ませていただきたいと思います。
ヘルメット姿・・・(爆)。
これからもちよみさんの活躍、期待します。
比呂
Posted by 比呂 at 2009年03月09日 08:40
比呂さんへ>
ブログを閉じられること、本当に残念です。比呂さんの記事は、難しい政治問題や社会問題もきっちりと考えさせてくれながらも、判り易く、たくさんの人たちに読んで頂きたい素晴らしいコラムでした。
また、機会がありましたら、ぜひ、書いて頂きたいと思います。わたしのブログも、お時間がありましたら、開いて見て下さい。そして、また、コメントもよろしくお願いします。(^-^)
ことろで、ご覧になられてお判りかと思いますが、昨夜から、わたしのブログの調子がおかしくなっていて、書き込む文字が、縮小されて公開されてしまうのです。サイトの管理者の方にもご相談したのですが、原因が判らないとのこと。今日、専門家の方に相談して来たいと思います。しばらく、お見苦しい画面ですが、申し訳ありません。
本当に、また、ご訪問して下さること、心よりお待ちしております。
ちよみ
ブログを閉じられること、本当に残念です。比呂さんの記事は、難しい政治問題や社会問題もきっちりと考えさせてくれながらも、判り易く、たくさんの人たちに読んで頂きたい素晴らしいコラムでした。
また、機会がありましたら、ぜひ、書いて頂きたいと思います。わたしのブログも、お時間がありましたら、開いて見て下さい。そして、また、コメントもよろしくお願いします。(^-^)
ことろで、ご覧になられてお判りかと思いますが、昨夜から、わたしのブログの調子がおかしくなっていて、書き込む文字が、縮小されて公開されてしまうのです。サイトの管理者の方にもご相談したのですが、原因が判らないとのこと。今日、専門家の方に相談して来たいと思います。しばらく、お見苦しい画面ですが、申し訳ありません。
本当に、また、ご訪問して下さること、心よりお待ちしております。
ちよみ
Posted by ちよみ
at 2009年03月09日 11:14

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