~ 炎 の 氷 壁 ~ 22
2009年03月12日
時任圭吾の頭の中では、黒鳥真琴が行方不明になっているということに対する、えも言われぬ漠然とした整理のつかぬ懸念もさることながら、加えて、本間雄介が話したところの、野田開作の奇妙な言葉の意味の不可解さも、混沌たる渦を巻いていた。時任にも、稀に、自分に接する野田の態度や親切心があまりに過剰で、気味が悪いとさえ思えることがある。今まで、スキーパトロール員を続ける中で、彼のパートナーは何人も交替したが、仕事がきついという理由で辞めた者がいる一方で、野田との間のトラブルを辞職の原因に挙げる者がいたのも事実であった。
そんな時、時任は、必ず彼らにそのトラブルの理由を訊ねたものだが、彼らは一様に、
「時任さんには申し訳ないんですけれど、野田さんて、何となく怖いんですよ。あなたと一緒にこれからも仕事をして行くとなると、必然的に、あの人とも顔を合わせなくてはならない訳で、とても我慢出来そうにありません。勘弁して下さい------」
そんなことを告げると、そそくさと志賀高原(やま)を下りて行ってしまった。
だが、そのような雲をつかむにも似た理由では到底納得のいかない時任は、ある時、いったい彼らパートーナーとどのようなやり取りをしたのかと、直接、野田に問い質(ただ)したことがあった。しかし、野田は、
「なに、単なる意見の相違だよ。言い争いをした訳でも、何でもない。ましてや、彼らに何らかの脅しをかけて怖がらせるなんて、そんなことおれの立場で出来る訳ないじゃないか。バカバカしい」
と、笑って取り合おうともしなかった。だが、ここに来て、新しいパートナーの本間雄介までが、先に辞めて行った彼らと同様のことを言い始めているのだ。
時任の野田への不信感が、再び頭を擡(もた)げ始めていた。
スキーパトロール本部を出てから、宿としている横手山ロッジへと、いつものように戻って来た時任は、午後十時過ぎ、ホテルの一般業務が一段落した頃合いを見計らって、フロントデスクで帳簿の整理にあたっていた野田開作を、同ホテル内の半地下に造られているワインセラー(貯蔵庫)室内へと、呼び出した。
「いったい、どうしたっていうんだ、時任?こんな所へ呼び付けて。話なら、別の場所でも出来るだろう?」
珍しく、不機嫌顔で現れた野田は、何やら、そわそわと目線の落ち着かない素振りで、居心地悪そうに立っている。ワインセラーの薄暗い電球の明かりの下で、野田の顔色は蒼白くさえ見えた。
「仕事中に、すまない」
時任は、一応形式的な詫びを入れてから、
「ここなら、何をしゃべっても、他の者に聞かれる心配はないからな」
時任は、努めて無表情を装いながら、乾いた声を室内に響き渡らせる。そして、
「おれの訊きたいことは、判っているはずだ。今日は、いつものはぐらかしはなしだ。きっちりと、答えてくれ」
と、野田に迫った。しかし、野田は、彼独特の人を見下したような微苦笑を浮かべ、困惑顔で眉をひそめる。
「お前の訊きたいこと?そんなこと、おれが判る訳ないじゃないか。いくら親友とはいっても、以心伝心というほどの芸当は出来ないよ。------本当に、どうしたんだ?いつものお前らしくないぞ」
「判らないなら、はっきり言おう。野田、お前、昨夜(ゆうべ)、雄介の見ている前で、おれに何をしたんだ?」
時任は、しゃべりながら自分の言葉が、自然と険を含むのが判った。すると、野田は、呆れたように、ふんと鼻で小さく笑うと、
「何だ、そんなことか・・・・」
そう、やや安堵の溜息をつきながら、そばにある木製の丸椅子を手元へ引き寄せて、そこへ腰を下ろした。そして、臆面もなく失笑気味に、
「------別に、大したことじゃない。あの、本間雄介という坊やが大袈裟なんだ。おれは、ただ、お前の寝顔を見ていただけだよ。それだけのことさ。なのに、自分が勝手におれたちの様子を盗み見るような姑息な行動を執っておきながら、こっちを悪者呼ばわりするとはな。こちらの親切心が徒(あだ)になったというものだよ」
と、言った。しかし、時任は、そんな言い訳がましいことを聞きたいのではないと、なおも野田を追及する。
「雄介の話によれば、お前は『悪魔に魂を売り渡した』と、言っていたそうだが、それはどういう意味なんだ?雄介が、お前のことをあそこまで警戒し、嫌悪するというのには、それ相応の理由があるに違いないんだ。お前は、これまでのおれのパートナーたちにしたように、おれの知らないところで、雄介にも同じ嫌がらせのようなことをしたんじゃないだろうな!?」
それを聞いた途端、それまで大人しく淡々とした表情で時任を見詰めていた野田の目付きが、俄に嫌悪感に満ちた鋭い光を放ったかと、思うと、寸時を置き、押し殺した声で吐き捨てるように言った。
「-------雄介、雄介、雄介!どうして、あんな奴のことをそれほど気にするんだ?まだ、知り合って数日の男のことを、何でそこまで・・・・・?」
そう言うと、椅子からゆっくりと立ち上がり、激しく肩を震わせて、憎々しげに呻(うめ)く。
「あんな奴、どうなろうと、知ったことじゃない!時任、お前には、おれがいればいいだろう?おれさえいれば、本間雄介なんて男は、必要ないはずだ!そうだろう!?」
野田は、思わず、時任の方へ一歩踏み出す。驚いた時任は、反射的に身体を退(ひ)くと、異様なものを見るような眼で野田を凝視し、顔面を強張らせた。
<この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空のものですので、ご了承下さい>
~今日の雑感~
晴れたかと思うと、曇って来て、雪が降って来たと思うと、また晴れて、三月の空は本当に落ち着きがない。春浅き日には風花(かざはな)が似合うなどと言いますが、そんな風流を楽しめるのも、健康な心体なればこそ。わたしのように未だに病み上がりの身には、この気紛れな天候は実際、応えます。
ところで、信濃グランセローズを取り上げておられるブロガーさんたちの記事も、シーズン開幕間近とあって写真や文章にも気合が入って来ました。みなさん、フットワーク軽く中野ローズ球場(市民球場)にも足を運ばれていて、何ともうらやましい限り。わたしのこの体調では、選手たちの勇姿を実際にこの目で見られるのは、いつになることやら・・・・。まだ、当分は、先のことのようです。そこで、ここでは、わたしの持っているささやか情報の中から、選手たちのエピソードを小出しにして行くことに------。
これは、昨年の小高大輔選手との他愛のない会話の一つです。
「BCリーグの各球団名の由来って、どういうことなのか、知っています?」
と、わたしが訊くと、小高選手は、もちろんですと、答え、
「『信濃グランセローズ』の球団名は、偉大なるのグレートと、カモシカのセローが合体したものだということは知っていますよね?それじゃァ、『福井ミラクルエレファンツ』は、判りますか?これは、福井県の格好が動物の象に似ているからという説があるんですよ。それに、『新潟アルビレックス』は、アルビーの白で白鳥の意味と、レックスの王の意味を合わせた言葉。『群馬ダイヤモンドペガサス』は、文字通りの天馬(ペガサス)から命名しているんだと思います。------」
「へ~、詳しいんですねェ。小高選手は、お話も上手だから、子供たちに野球のこと以外でも、色々と講演などしてもらえると嬉しいでしょうね」
「ありがとうございます。今度は、球場まで足を運んで下さいね」
「がんばって、元気になりますね」
わたしも、返事をしながら、とても清々しい気分になりました。
こんな小さなことでも、ファンにとっては嬉しいことですよね。
ただ、三月とはいっても、まだ雪模様の日が続く土地柄の中野市に練習の本拠地があって、選手たちは体調管理などにも気を遣うでしょうし、なんだか少し気の毒なような気もします。でも、こうしたハンディを克服して、ぜひ今年は優勝の二文字をその手中に収めて頂きたいものです。

「今日のベースボールキャップ」-----『群馬ダイヤモンドペガサス』(左上) 『福井ミラクルエレファンツ』(右上) 『新潟アルビレックス』(左下)
そんな時、時任は、必ず彼らにそのトラブルの理由を訊ねたものだが、彼らは一様に、
「時任さんには申し訳ないんですけれど、野田さんて、何となく怖いんですよ。あなたと一緒にこれからも仕事をして行くとなると、必然的に、あの人とも顔を合わせなくてはならない訳で、とても我慢出来そうにありません。勘弁して下さい------」
そんなことを告げると、そそくさと志賀高原(やま)を下りて行ってしまった。
だが、そのような雲をつかむにも似た理由では到底納得のいかない時任は、ある時、いったい彼らパートーナーとどのようなやり取りをしたのかと、直接、野田に問い質(ただ)したことがあった。しかし、野田は、
「なに、単なる意見の相違だよ。言い争いをした訳でも、何でもない。ましてや、彼らに何らかの脅しをかけて怖がらせるなんて、そんなことおれの立場で出来る訳ないじゃないか。バカバカしい」
と、笑って取り合おうともしなかった。だが、ここに来て、新しいパートナーの本間雄介までが、先に辞めて行った彼らと同様のことを言い始めているのだ。
時任の野田への不信感が、再び頭を擡(もた)げ始めていた。
スキーパトロール本部を出てから、宿としている横手山ロッジへと、いつものように戻って来た時任は、午後十時過ぎ、ホテルの一般業務が一段落した頃合いを見計らって、フロントデスクで帳簿の整理にあたっていた野田開作を、同ホテル内の半地下に造られているワインセラー(貯蔵庫)室内へと、呼び出した。
「いったい、どうしたっていうんだ、時任?こんな所へ呼び付けて。話なら、別の場所でも出来るだろう?」
珍しく、不機嫌顔で現れた野田は、何やら、そわそわと目線の落ち着かない素振りで、居心地悪そうに立っている。ワインセラーの薄暗い電球の明かりの下で、野田の顔色は蒼白くさえ見えた。

「仕事中に、すまない」
時任は、一応形式的な詫びを入れてから、
「ここなら、何をしゃべっても、他の者に聞かれる心配はないからな」
時任は、努めて無表情を装いながら、乾いた声を室内に響き渡らせる。そして、
「おれの訊きたいことは、判っているはずだ。今日は、いつものはぐらかしはなしだ。きっちりと、答えてくれ」
と、野田に迫った。しかし、野田は、彼独特の人を見下したような微苦笑を浮かべ、困惑顔で眉をひそめる。
「お前の訊きたいこと?そんなこと、おれが判る訳ないじゃないか。いくら親友とはいっても、以心伝心というほどの芸当は出来ないよ。------本当に、どうしたんだ?いつものお前らしくないぞ」
「判らないなら、はっきり言おう。野田、お前、昨夜(ゆうべ)、雄介の見ている前で、おれに何をしたんだ?」
時任は、しゃべりながら自分の言葉が、自然と険を含むのが判った。すると、野田は、呆れたように、ふんと鼻で小さく笑うと、
「何だ、そんなことか・・・・」
そう、やや安堵の溜息をつきながら、そばにある木製の丸椅子を手元へ引き寄せて、そこへ腰を下ろした。そして、臆面もなく失笑気味に、
「------別に、大したことじゃない。あの、本間雄介という坊やが大袈裟なんだ。おれは、ただ、お前の寝顔を見ていただけだよ。それだけのことさ。なのに、自分が勝手におれたちの様子を盗み見るような姑息な行動を執っておきながら、こっちを悪者呼ばわりするとはな。こちらの親切心が徒(あだ)になったというものだよ」
と、言った。しかし、時任は、そんな言い訳がましいことを聞きたいのではないと、なおも野田を追及する。
「雄介の話によれば、お前は『悪魔に魂を売り渡した』と、言っていたそうだが、それはどういう意味なんだ?雄介が、お前のことをあそこまで警戒し、嫌悪するというのには、それ相応の理由があるに違いないんだ。お前は、これまでのおれのパートナーたちにしたように、おれの知らないところで、雄介にも同じ嫌がらせのようなことをしたんじゃないだろうな!?」
それを聞いた途端、それまで大人しく淡々とした表情で時任を見詰めていた野田の目付きが、俄に嫌悪感に満ちた鋭い光を放ったかと、思うと、寸時を置き、押し殺した声で吐き捨てるように言った。
「-------雄介、雄介、雄介!どうして、あんな奴のことをそれほど気にするんだ?まだ、知り合って数日の男のことを、何でそこまで・・・・・?」
そう言うと、椅子からゆっくりと立ち上がり、激しく肩を震わせて、憎々しげに呻(うめ)く。
「あんな奴、どうなろうと、知ったことじゃない!時任、お前には、おれがいればいいだろう?おれさえいれば、本間雄介なんて男は、必要ないはずだ!そうだろう!?」
野田は、思わず、時任の方へ一歩踏み出す。驚いた時任は、反射的に身体を退(ひ)くと、異様なものを見るような眼で野田を凝視し、顔面を強張らせた。
<この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空のものですので、ご了承下さい>
~今日の雑感~
晴れたかと思うと、曇って来て、雪が降って来たと思うと、また晴れて、三月の空は本当に落ち着きがない。春浅き日には風花(かざはな)が似合うなどと言いますが、そんな風流を楽しめるのも、健康な心体なればこそ。わたしのように未だに病み上がりの身には、この気紛れな天候は実際、応えます。
ところで、信濃グランセローズを取り上げておられるブロガーさんたちの記事も、シーズン開幕間近とあって写真や文章にも気合が入って来ました。みなさん、フットワーク軽く中野ローズ球場(市民球場)にも足を運ばれていて、何ともうらやましい限り。わたしのこの体調では、選手たちの勇姿を実際にこの目で見られるのは、いつになることやら・・・・。まだ、当分は、先のことのようです。そこで、ここでは、わたしの持っているささやか情報の中から、選手たちのエピソードを小出しにして行くことに------。
これは、昨年の小高大輔選手との他愛のない会話の一つです。
「BCリーグの各球団名の由来って、どういうことなのか、知っています?」
と、わたしが訊くと、小高選手は、もちろんですと、答え、
「『信濃グランセローズ』の球団名は、偉大なるのグレートと、カモシカのセローが合体したものだということは知っていますよね?それじゃァ、『福井ミラクルエレファンツ』は、判りますか?これは、福井県の格好が動物の象に似ているからという説があるんですよ。それに、『新潟アルビレックス』は、アルビーの白で白鳥の意味と、レックスの王の意味を合わせた言葉。『群馬ダイヤモンドペガサス』は、文字通りの天馬(ペガサス)から命名しているんだと思います。------」
「へ~、詳しいんですねェ。小高選手は、お話も上手だから、子供たちに野球のこと以外でも、色々と講演などしてもらえると嬉しいでしょうね」
「ありがとうございます。今度は、球場まで足を運んで下さいね」
「がんばって、元気になりますね」
わたしも、返事をしながら、とても清々しい気分になりました。
こんな小さなことでも、ファンにとっては嬉しいことですよね。
ただ、三月とはいっても、まだ雪模様の日が続く土地柄の中野市に練習の本拠地があって、選手たちは体調管理などにも気を遣うでしょうし、なんだか少し気の毒なような気もします。でも、こうしたハンディを克服して、ぜひ今年は優勝の二文字をその手中に収めて頂きたいものです。
Posted by ちよみ at 10:57│Comments(3)
│~ 炎 の 氷 壁 ~ Ⅱ
この記事へのコメント
やはりこの挿絵はちよみさんが?
エライですよ~(^0^)
今回の野田さんの絵、彼らしい負の陰性を感じさせる人物画になっていると感心した次第です☆
エライですよ~(^0^)
今回の野田さんの絵、彼らしい負の陰性を感じさせる人物画になっていると感心した次第です☆
Posted by うたかた夫人
at 2009年03月15日 01:15

あ・・それからいつもチラと思ってきたのですが、登場人物の名前の付け方です。
黒鳥なんというのは、いかにもって感じで良いですよ~☆命名には苦労してますか?
黒鳥なんというのは、いかにもって感じで良いですよ~☆命名には苦労してますか?
Posted by うたかた夫人
at 2009年03月15日 01:20

うたかた夫人さまへ>
小説、お読み頂きありがとうございます!
はい、毎度の如く、下手なりにも描かせて頂きました。イメージ的には、こんな感じかなァと・・・。(^_^;)正直、野田のような男性がいたら、ちょっと引きますけどね・・・。
登場人物の名前は、大体が書いている時の思い付きなんですが、黒鳥姓に関しては、実は、わたしの住んでいる周辺には意外に多いんです。時任の名前は、以前観たテレビドラマの主人公・時任中尉から拝借しました。確かに、登場人物の名前は、出来るだけ字や読み方がダブらないようには注意しているのですが、たまに、似たような名前の人物が出て来てしまったり---。
「うわァ、もう書きなおせない・・・(>_<)」なんて、凹んだりしますね。
小説、お読み頂きありがとうございます!
はい、毎度の如く、下手なりにも描かせて頂きました。イメージ的には、こんな感じかなァと・・・。(^_^;)正直、野田のような男性がいたら、ちょっと引きますけどね・・・。
登場人物の名前は、大体が書いている時の思い付きなんですが、黒鳥姓に関しては、実は、わたしの住んでいる周辺には意外に多いんです。時任の名前は、以前観たテレビドラマの主人公・時任中尉から拝借しました。確かに、登場人物の名前は、出来るだけ字や読み方がダブらないようには注意しているのですが、たまに、似たような名前の人物が出て来てしまったり---。
「うわァ、もう書きなおせない・・・(>_<)」なんて、凹んだりしますね。
Posted by ちよみ
at 2009年03月15日 15:04

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。