~ 炎 の 氷 壁 ~ 26

 時任圭吾が野田からの呼び出しに応じて、熊の湯温泉スキー場へと赴くのを引き留められず、なす術がないままに見送るしか出来なかった雄介の後悔は、スキーパトロール本部へ戻ってからというもの、ますます膨らんで行った。黒鳥真琴の捜索が難航している最中(さなか)、落胆と疲労の色を濃くしつつ、本部の事務所へと戻って来たパトロール員たちは、各自スキー靴を脱ぎ、疲れた足を労(いたわ)りながら、遅めの昼食を取る。雄介も彼らに交じって、索道協会が用意した握り飯に手を付けようとしたのであるが、やはり、時任のことが気掛かりで、どうにも食欲がわかない。
 そんな雄介の様子を不審に思ったものか、神崎パトロール員が、マグカップに注いだお茶を差し出しながら、顔を覗き込むようにして話し掛けて来た。
 「本間君、どうしたの?お握りは嫌いだった?」
 「------いいえ、そんな訳じゃありませんけど・・・・・」
 「だったら、今のうちに少しでも腹ごしらえしておかないと-----。これから、また捜索に出なけりゃならないんだよ。冬山でのすきっ腹は、ただでさえ命取りになるんだからね。無理してでも、食べておきなさい」
 「はあ・・・・・・・」
 雄介は、ぼそりとした声音で返事をすると、仕方無しに握り飯を一口かじる。
 高木主任は、事務机に向い、先ほどから引っ切り無しにかかって来る電話の応対に当たっていた。しばらくして、その受話器を置いたのち、そこにいるパトロール員たちに向かって、午後からの捜索活動には、長野県警のヘリコプターも出動する旨を言い渡した。これにより、この捜索活動は、おそらく今日が山場になるだろうということは、そこにいる誰もが暗黙のうちに悟ることが出来た。
 「とにかく、まだ、諦める訳にはいかんからな。みんな、性根を入れて発見に努めてくれ!」
 高木主任は、そう檄文(げきぶん)を飛ばすが如く言い放ってから、
 「それにしても、こんな大事な時に、いったい時任君は、どうしてまた熊の湯温泉なんかに行ったのかね?本間君、きみは何かそれについて詳しいことを聞いていないのか?」~ 炎 の 氷 壁 ~ 26
 と、雄介に質問を振って来た。
 「・・・・・・・・・・」
 雄介は、正に答えに窮して、眉間に皺を寄せ俯いてしまう。だが、次の瞬間、腰掛けていたパイプ椅子を蹴り飛ばして勢いよく立ち上がると、大股で高木主任の眼前へと歩み出る。
 「ど、どうしたんだね-----!?」
 その予期せぬ剣幕に、思わず声を裏返えらせた高木主任に向かい、雄介は、意を決して願い出た。
 「主任、申し訳ありません。おれも、午後の捜索から少しの間外れます。私用の外出許可をお願いします」
 「何を言い出すんだ?時任君がいないだけでも、員数不足で手が回らんというのに、きみまで外れてしまったら、ますます捜索に支障を来たすことになる。許可する訳にはいかんよ」
 唐突な雄介の頼みに、高木主任は決して首を縦に振ろうとはしない。雄介は、それならばやむを得ないと、腹をくくり、
 「では、許可はいりません。勝手に行かせて頂きます。叱責は、帰ってから受けますので、ご存分にどうぞ!」
 そう、語気荒く言い置くと、雄介は、もはや高木主任を振り返ることなく、スキーパトロール員用のユニフォームジャケットを引っ掴むとともに、靴も軽快に歩けるスノーブーツに履き替えるや、一目散に本部事務所を飛び出して行く。
 そして、監視塔の玄関口まで走り出て来たところで、その雄介を背後から追い掛けて来た神崎が声をかけた。
 「本間君!待って-------」
 神崎は、雄介を呼び止めると、
 「時任さんの所へ行くつもりなんでしょ?」
 と、訊く。やや躊躇った末に、その通りですと、雄介が答えると、神崎は、何を思ったのか、自分の携帯電話を雄介に手渡し、
 「あんた、携帯持っていないでしょう。これ、持って行きなさい」
 と、言う。雄介が、戸惑いを顔に表すと、神崎は、遠慮する必要はないからと、強いて押し付け、
 「何かあった時に、役に立つかもしれないからね」
 如何にも、意味深長な言い回しで、雄介を送り出した。雄介は、そんな神崎の好意に対して簡単に礼を述べると、熊の湯温泉スキー場にいる時任の許へと急ぐべく、既に除雪の行き届いた道を脱兎の如く走り出して行った。



    <この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空の物ですので、ご了承下さい>



    ~今日の雑感~

    パソコンを始めてまだあまり間のないわたしは、使い方を理解しきれていないため、判らないことがあると、その度にパソコンを持っては、購入先の電機店まで教えを請いに行きます。しかし、その都度思っていたことは、何とも運びがってが悪いということです。わたしの物は、いわゆるノート型パソコンなのですが、やはりノートとは言ってもそこは機械ですから、重いし、持ちづらいし、何とも大変でした。すると、その電機店のお兄さんが、「こんな物があるんですけれど、お使いになってみませんか?」と、見せてくれたのが、ノート型パソコンを運ぶためのパソコンケースなるもの。~ 炎 の 氷 壁 ~ 26
    この中に、パソコンを納めて運べば、もし落としたり転んだりした時も、かなりの確率で破損は免れるとのこと。見た目もなかなか格好良くて、ちょっとしたビジネスマン感覚が味わえます。こんなケースが販売されていたなんて、全然知りませんでした。電機店のお兄さん、アドバイスありがとうございました。(^。^)
 


 


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この記事へのコメント
ちよみさん へ
少し御無沙汰しました。
そして少し悩みもしましたが、少しずつブログ更新するようにします。また時々覗いて下さいね。
そうそう こういう専用バック 以外と優れものですょ。
また 我が家の事ですが
息子がバイクの後に友達をのせて、大転倒し 友達がノーパソを片に掛けてたのですが、二人は怪我をしたのに、パソコンは無事だったのですよ。
その時は 驚きました。
(けして 回し者ではありませんが、宣伝してしまいました。。。<笑>)
Posted by 艶や華 at 2009年03月16日 14:40
艶や華さまへ>

 こんにちは。
 ブログ、更新されるんですね!とても嬉しいです!!\(^o^)/
 艶や華さまの記事がないと、やっぱり寂しいです。お花の力って偉大だなァと、改めて感じた次第です。春ですから、これからは、更に、「花のガーデン」の季節ですよ。❤また、楽しみに拝見させて頂きます。
 パソコン専用バッグ、実に利用価値がある物ですね。(息子さん、お怪我をされてご心配だったでしょう・・・。)それでも、パソコンは無事というのは、確かに優れ物ですね。こういう良い物があるとはつゆ知らず、ボール紙製の衣装ケースに入れて運んでいたのですから、お店の人も、心配して下さったようです。
 コメント、ありがとうございました!
 
Posted by ちよみちよみ at 2009年03月16日 15:06
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