泣けないわけ・・・・・616

~ 今 日 の 雑 感 ~


泣けないわけ




    わたしは、近頃、泣いたことがない。

    身体中の骨が潰れて行く激痛をこらえていた時の辛さで、涙はすべて使い果たしたようだ。

    立ち上がる時、起き上がる時、わたしはいつも猛獣のような声で絶叫していた。その声は、隣近所の家にも響いていたと思う。

    寝ても起きても痛みは去らず、畳に敷布団を敷いただけでは眠れなくなり、ベッドに低反発マットレスを二枚重ねしてその上に更に敷布団を敷き、仰向けのままの姿勢で一度も寝返りをうてぬまま、朝まで横になるのだ。

    掛け布団も重すぎて、真冬でも肌がけ一枚をかけられればいい方で、肋骨はそれでも何本も折れた。

    こうなると、頭蓋骨も縮んで薄くなって行くために、耳鳴りがひどくなり、一晩中耳の中でコーランが聞こえているような状態となる。

    心臓が異常な激しさで鼓動し、お風呂に入るとますますひどくなり、水圧で「ド、ド、ド、ド」と、もの凄い拍動をする。

    湿布薬で全身がかぶれ、身体中の傷が炎症を起こして血が混じった黄色い汁が出て来る。

    それでシーツは毎晩染みだらけだ。

    肩が落ち、奇妙なほどのなで肩になり、腕がまっすぐ上に上がらなくなる。

    歯がガタガタになり、眼球も飛び出す。

    手足が異常に熱くなるので、夏などは常に水で冷やさなくてはならない。

    腎臓には無数の巨大な結石が出来、腎機能も落ちる。たまにこの結石が尿管を下る時の激痛は、大の男も失神するという話である。確かに、痛みはすさまじかった。

    気味が悪いほど、食べても食べても痩せて行き、ついには食欲もなくなり、身体中が皺だらけになる。

    下着も痛くて、出来るだけ身体に触れないように、ハサミであちこち切り込みを入れた。

    手術の際、麻酔がかかったあとでその下着を見たスタッフは、おそらく意味が判らなかったことだろう。

    血液中に増えすぎたカルシウムのせいで異常な喉の渇きを覚え、水分を取りすぎるために手足が浮腫み、顔色も青白く膨れる。そのせいもあり、白眼が水で膨らみ、充血する。

    身長は10センチも縮み、背中は丸まり、歩行すら出来ない。

    今は、痛みもかなり引いたが、あの長い間の激痛があまりにひどすぎたために、感動という気持ちさえも失ってしまったようだ。

    人は、痛さを知る人ほど、他人には優しくなれるというが、その痛さも程度ものだと思う。

    あまりに激痛をこらえすぎると、感情すらも薄れてしまうのかもしれない。

    そのせいか、いつも何処か冷めている自分がいるのだ。

    でも、またいつか、花や空を見て心から美しいと思うことが出来るようになるのだろうか・・・・?

    悲しい話を聞いて、涙をこらえるような殊勝な気持ちが生まれるのだろうか・・・・?

    何かに感動するには、ある程度の体力的余裕が必要だということも知った。

    しかし、今の状態も、これはこれで悪くはない。

    痛みがないだけ天国だ。

泣けないわけ・・・・・616



    

    

<今日のおまけ>

    わたしの場合、朝の身長と夕方以降の身長では、かなり違う。

    夕方になると、たぶん、3センチ以上は小さくなっていると思うのだ。

    だから、しょっちゅう鴨居に両手でつかまり、背中を伸ばす。すると、メリメリ、バキバキというようなすごい音がする。

    これをやってからでないと、散歩にも出られない。

    まあ、要するに、今はまだ人さまにお見せできるような容姿ではないということなのだ。

    もともと、大した容姿でもないけれど・・・・。face03

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この記事へのコメント
こんばんは。

物凄い痛みに耐えてこられてんですね。

本文を読んだだけでも、その痛みの酷さに
こちらも震えがくるようでした。

痛みは、その人、本人にしかわからない
と思います。

僕の母も毎日痛みに耐えています。
幻肢痛という、足を切断してしまった
後に起こる、痛みです。
もうないはずの足の部分が痛むのです。

傍の者はそれがどんなに痛いのかは
わかりません。
痛みがないだけ天国だ、という気持ちだけはわかります。
Posted by こみさん at 2010年06月20日 22:47
こみさまへ>

 自分で言うのもなんですが、あれはもう痛みの範疇を超えていたと思います。色々な感情が吹き飛び、残るのはただ怒りのみです。わたしは、良く覚えていないのですが、検査技師さんが足を固定した時、そのあまりの激痛に、「殺してやる!」と、叫んだそうです。
 そのせいで、次の検査ではその技師さんは別の人に変わっていました。そりゃァ、殺されてはたまりませんからね。(笑)

 そうなんです。
 痛みは本人にしか判りません。どんなに、口を酸っぱくして説明しても、他人に理解できる範囲は決まっています。わたしも、最初のうちは、医師もその痛みが判らず、痛み止めを処方してくれませんでした。でも、数値を見た時、さすがに仰天し、慌てて痛み止めを出してくれたのです。

 お母さまは、幻肢痛に耐えておられるんですね。この痛みは、かなりひどいものだと聞いたことがあります。ないはずの足の部分が痛むというのは、どうしようもない脳の錯覚ですよね。お辛いでしょうね。
 
 人は、他人が想像すらできない過酷な経験をして来ている場合があるのです。
 その人たちの痛みをすべて知ることは無理でも、その過酷さに耐えているという事実だけは、率直に受け止めて頂きたいと思います。それだけでも、患者にとっては、かなりの勇気になるものなのです。
Posted by ちよみちよみ at 2010年06月20日 23:26
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