ほのぼの会話・・・・・783

~ 今 日 の 雑 感 ~


ほのぼの会話



    
    病院の待合室にいた時、すぐ近くの椅子へ真っ白な髪の小柄なおばあさんが腰をおろした。

    おばあさんの前にはシルバーカーがあり、そのそばに50代の女性が一人立っていた。

    「ちょっと、ここにいてね。ここから動かないでね」

    女性は、おばあさんにそう言い残して、何処かへ去って行ってしまった。おばあさんは、ほんの一分ほど一人でそこに座っていたが、すぐに不安になったようで、いなくなった女性を大きな声で呼び始めた。

    「お~~い、お~~い」

    そうこうするうちに、おばあさんは、付き添い女性と同じくらいの年頃の女の人がちょうど目の前を通ると、いきなり立ち上がり、シルバーカーを押してその女の人のあとを追おうとしたのである。

    それを見た一人の高齢男性が、おばあさんに声をかけた。ほのぼの会話・・・・・783

    「その人は、違うんじゃないのかい?ついて行っちゃだめだよ」

    「はあ?」

    おばあさんは、高齢男性の方へ顔を向け、不思議そうな眼をすると、「おめさん、誰だい?」と、訊く。

    高齢男性は、おばあさんの座っていた隣の椅子へ腰をかけ、「おめも座れや」と、言うと、おばあさんを腰かけさせた。

    「だめだよ、知らない人について行っちゃァ。一緒に来てくれたのは、別の人だろ?」

    男性が注意をすると、おばあさんはニコニコしながら、「そうかい?近頃は、おら、みんな忘れちゃってな。人の顔も、会ったことも何も覚えてねェんだ」と、照れくさそうに言った。

    「おれだってそうだ。みんな、忘れちまう。さっきの女の人は嫁さんか?」

    男性が訊くと、おばあさんは、そうだと答え、「嫁の顔も、忘れちまうな」と、声をあげて笑った。男性は、おばあさんに歳を訊ねる。おばあさんは、「八十二・・・・だな」と、あまり自信なさげに首と傾げると、「おめさんは?」と、訊き返した。

    「おれか?----おれは、大正十二年生まれだ。八十八か・・・・」

    「そうかい。おれより、相当上だんな。若ェな・・・・」

    「何せってんだ、おめの方が若いわ。顔の色つやもいいしさ」

    「歳は若くたって、頭ん中は、へえ、もうろくしてらさ」

    そんな会話を交わしている二人の所へ、先ほどの付き添い女性が戻ってきた。知り合いでもない高齢男性と親しそうに話をしている義母に驚いた様子で、

    「義母(はは)の相手をして下さって、ありがとうございます。ご迷惑おかけしました」

    と、心から恐縮すると、高齢男性は、久しぶりに家族以外の女の人と話をさせてもらって、自分の方こそありがとうとお礼を言い、彼もまた一緒に来ていた嫁とおぼしき女性と共に、病院から去って行った。

    わたしは、この二人の老人の屈託ない会話を聞きながら、つい笑いがこみあげて来て慌てて手で口元を隠した。

    こんな風に老いや認知症を楽しめれば人は幸せなんだろうな----と、思うとともに、どんなに年をとっても男女の会話は気持ちを活性化させるものなのだなとも、改めて気付いたのだった。

<今日のおまけ>

    「こんなに不景気が長引くとは予想しなかった」

    この言葉を、街中で日に何度聞くことだろうか?開店休業の店の人たちは顔を合わせれば、お客が来ないと口をそろえる。

    この夏の猛暑に加えて、円高不況がモロに追い打ちをかけているのだ。

    菅さんは、「一にも二にも雇用」と言うが、仕事がないのに人を雇う企業などある訳がない。

    どうやって、企業自体の仕事を見つけるかが、民主党の近々の課題だと思う。

    

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この記事へのコメント
ちよみさん、おはようございます。

記事を読んでいて、こちらもほのぼのしたものを感じました。

年をとるというのは、仕方のないことで、誰も皆、年はとっていくのですから。

老いていっても、人との会話をしたいのはすごく当たり前のこだと思います。

家の母も入院している病室の同室のかた
の付き添いにきていた家族の方に、いろいろ話掛けていました。

誰かと話したり、ふれあったりすることは
大切なことですね。

今は、ブログなんかも、そのような手段の一つなんでしょうね。
Posted by こみさん at 2010年09月12日 10:48
こみさまへ>

 そうですね。
 会話というものは、高齢者にとってはかなりの良薬だと思います。
 この二人のお年寄りもとても楽しそうに話をしておられました。おばあさんの方は、家へ帰れば高齢男性のことなど忘れてしまうかもしれませんが、でも、会話の最中は本当に嬉しそうでした。

 正に、ブログもそうした会話の一つですね。

 おっしゃるように、人は必ず年をとりますから、物覚えが悪くなったり判断力が鈍くなるのは仕方がありませんよね。
 でも、日々の一瞬一瞬を楽しく生きられれば、それも幸せの姿だと思います。
 

 お母さまのお加減はいかがですか?
 お母さまも病室では、楽しい会話をされていたんですね。とても良いことだと思います。
 ようやくあの酷暑は過ぎて、少しは涼しくなりましたから、食欲も戻り、お元気を回復されると良いですね。
Posted by ちよみちよみ at 2010年09月12日 12:17
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