~ 炎 の 氷 壁 ~

 ~ 炎 の 氷 壁 ~


~ 炎 の 氷 壁 ~



  その日、山は明け方から生憎の吹雪となった。時折、さらなる強風が縦横に駆け巡ると、辺りは、一瞬にして白亜の闇に包まれた。降雪紛々たるスキー場の一角に、ひっそりと佇むゲレンデ監視塔を眼前に据えて、しばし立ち止まった本間雄介(ほんまゆうすけ)は、おもむろに腕時計へと視線を落とす。
 「一月十七日午前八時三十二分、到着か------」
 ぼそりと独ごつと、肩にかけた大型のスポーツバッグを揺すり上げたのち、再びスノーブーツを雪に軋ませて歩き始めた。
 監視塔まで続く細い間道は、白樺林の間隙を縫うような形に均(なら)されてはいるものの、吹き積もる雪により、その軌跡も次第に不確かとなり、冬枯れの樹枝が、ただ風勢に頭(こうべ)を喘ぐばかりであった。
 長野県の北部、群馬県と県境を接する広大な上信越高原国立公園の核心部を占めて、志賀高原はある。岩菅山(いわすげやま)、志賀山、横手山、焼額山(やけびたいやま)等々、標高二千メートル以上の山々からなる志賀高原は、全山二十二のスキー場を抱える国内有数のウインタースポーツリゾートであり、去る一九九八年の長野冬季五輪の際には、この地で数々の名勝負が行われたことも、今ではスキー史の一ページとなっている。
 そうした志賀高原のスキー場の一つである横手山スカイパークスキー場内に建つゲレンデ監視塔の中へと入った雄介は、ジャケットに付いた雪を払い落し、スキーパトロール本部と記されたプレートが下がる木製の扉をノックした。パトロール員室のストーブの周りには、三人のスキーパトロール員が集まり、各自思い思いにくつろいだ格好で暖を取っていたが、うち一人は女性であった。
 雄介が室内へ入ると、三人の目は一様に彼へと向けられた。彼らはまるで申し合わせたように、皆無表情であった。一番奥に腰掛けていた未だ二十代前半と思しい若い男性パトロール員が、やおら立ち上がると、雄介に向って軽捷(けいしょう)に会釈をし、入れ違いに部屋から退出して行った。
 これを見計らったかのように、今まで雑誌を読み耽(ふけ)っていた女性パトロール員が、活字から目を離し、ニヤリと乾いた唇を歪めた。彼女は、ストーブのそばへ寄って体を温めるよう雄介を促したのち、熱いブラックコーヒーを注いだカップを半ば強引に彼に手渡して来た。
 「飲んでおきなさい。天候の良し悪しにかかわらず、出動は待ったなしなんだからね」
 女性パトロール員の胸元の名札には、神崎綾子(かんざきあやこ)と書かれている。年齢は、雄介よりもやや上であろうか。三十歳前後と思われ、その言動から察して、かなりのスキーパトロール経験を有するものであろうことは、容易にうかがい知れた。 こちらの心中を見透かしたかの如き神崎パトロール員の通暁(つうぎょう)した態度に、いささかの戸惑いを覚えながらも、雄介が遠慮がちにコーヒーを一口啜(すす)り込んだ時である、奥の続き部屋との間にある扉が開いて、見事なまでに雪焼けした顔の一人の中年男性が、慌ただしげに姿を現わした。中年男性は、ここ志賀高原の横手山スカイパークスキー場のスキーパトロール本部主任の高木三郎(たかぎさぶろう)であった。高木主任は、目敏く雄介の存在に気付くと、自ら大股に歩み寄り、長身の青年を見上げながら、好人物そうな柔和な笑みをたたえる。
 「本間雄介君だね。着任を待っていたよ」
 「今日から、こちらのパトロール員としてお世話になります。よろしくご指導下さい」
 雄介は、静かに一礼した。

~ 炎 の 氷 壁 ~



    <この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空の物ですので、ご了承下さい>



    ~ ご挨拶 ~

    本日より、新たな小説ブログ、「炎の氷壁」を、連載してまいります。皆さまには、前作の「地域医療最前線~七人の外科医~」ともども、引き続きご愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。

                         ちよみ


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この記事へのコメント
こんにちは!!

今回の小説、楽しみに読ませて頂きますね。 恋愛ものかなあ・・・・?
推理かなあ・・・? 文章といい、
挿し絵といい、いつもながら 尊敬です。
   頑張って下さい。
Posted by 艶や華艶や華 at 2009年02月16日 16:03
艶や華さまへ>

 コメントありがとうございます。
 う~ん、書き出してはみたものの、どのような展開になるのか、まだ自分でもしっかりと構想が固まっていないんですよね。とりあえず、出だしのベースは摑んでいるんですけど・・・。推理物?恋愛物?---女性を描くのは、あまり得意じゃァないしなァ・・・。
 でも、いずれにしても、今度の小説はあまり長編にはならないと思います。こういう行き当たりばったりの性格が、大成しない理由でもあるんですよね。(~_~;)
 こんな小説ですが、どうか今後ともご愛読賜りますよう、よろしくお願いたします!また、拙い挿絵もお褒め頂き本当にありがとうございます。
 これからも、ご期待に添えますよう頑張って書きますので、お目をお通し頂ければありがたく存じます。<(_ _)>
Posted by ちよみ at 2009年02月16日 16:49
新連載おめでとうございます。

楽しみにしています^^
Posted by ririchi at 2009年02月16日 17:23
ririchiさんへ>

 こんばんは。
 コメントありがとうございます。
 新作も、前作同様、ご愛読下さいますようお願い申し上げます。がんばって書きます!
 
 「べんじょさんだるメモ」----いつも拝見しています。そして、わたしの朝の活力源でもあります。ririchiさんの元気を頂くと、「よし、やるぞ!」と、気合いが入ります。  ところで、ririchiさんは、自衛隊に入隊したかったんですね。わたしは、かなり以前ですが、防衛医大の学生さんたちとお話をさせて頂いたことがありました。また、取材をかねて、市ヶ谷の自衛隊本部へ行ったことも・・・。
 防衛医大では、一般の大学では学生会長というところを、大隊長というので、驚きました。
 では、自衛隊風に。本日は、ご訪問ありがとうございました。(敬礼!)
Posted by ちよみちよみ at 2009年02月16日 20:14
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