~ 炎 の 氷 壁 ~ ⑤
2009年02月20日
しかし、この忠告は、単に少年たちの反抗心をより頑迷なものとしたに過ぎなかった。彼らは、最初、雄介の方をチラッと一瞥したものの、それを無視すると、すぐにまた顔を寄せ合って自分たちの会話に戻ってしまった。仕方なく、再び雄介は彼らに声を掛ける。
「おい、聞こえないのか?そこは危険だから、早くこっちへ上がって来いと言っているんだよ」
それでも、少年たちは、胡散臭そうな目つきで、如何にもうるさいといった表情をこちらへ向けて来るだけである。
「・・・・・・・」
「------どうした、新米?しっかり、説得してみろよ」
困惑の顔色を隠せない雄介の心中などお構いなしに、時任は、急かせるような口ぶりでゲレンデ上から催促して来る。その口元は、明らかに薄笑いを浮かべているのが判った。そんな時任の態度にも、ついに辛抱出来なくなった雄介が、
「おい!いい加減、話を聞いたらどうなんだ!?」
思わず声を荒らげた時である。少年たちは、いきなりその場に立ち上がると、故意に雪面を蹴散らかしたり、こちらに向って前に突き出した手の中指を立てる仕種をするなど、しごく挑戦的な態度に出たあげく、ついには、雄介目がけて飲みかけのペットボトルを投げつけて来たのだった。
プラスティックのボトル容器は、飲み口の蓋が中途半端にしか閉められていなかったため、雄介の左胸にぶつかった途端、中の液体が飛び出して、支給されたばかりの真新しいユニフォームを濡らした。
「スキーパトロールだからって、格好つけるんじゃねえよ、おっさん!何処で滑ろうが、おれたちの勝手じゃねェか!人が作ったコースなんかで満足出来る訳ねェだろう。うざったいんだよ!」
少年の中の一人が険しい形相で噛みつくと、他の二人もつられたように、
「オフピステ(新雪面)で滑りたい!オフピステで滑りたい!」
と、まるで歌でも歌うように連呼し、囃したてる。結局、彼らには、自分たちが今とても危険な状態に直面しているのだという実感が、ほとんどないのであった。
「-------------!」
雄介の胸中を、ほんの一瞬ではあるが、こんな輩はいっぺんマジで死ぬほどの恐怖を味わってみればいいんだという、憤りがよぎった。が、そこは、何とか気持ちを堪えて、そのような感情の高ぶりなど噯気(おくび)にも出さぬ冷静さで、淡々と続ける。
「そうか、それじゃァ、好きにするさ。でも、一つだけ教えておいてやる。もしも、お前たちが、忠告を無視した結果事故に遭ったとしても、お前たちの意思には関係なく救助隊は出動するんだ。一応の決まりだからな。そうなれば、お前たちが生死にかかわらず発見されようが、また、発見されなかろうが、当然のことながら、救助費用がお前たちの家族に請求されるという訳だ。
この救助費用だが、いったい一日の相場で幾らくらいが遭難者やその家族の負担となるのか知っているか?一般人による救助活動に加えて、捜索ヘリ(ヘリコプター)まで出動しようものなら、遭難者一人につき百万円は下らない計算になるんだぞ。それが、三日、四日と続いたら、家族はどういう状況に置かれことになるのか、如何に脳天気なお前たちにも、想像ぐらいはつくはずだ。よく考えてみろ」
この雄介の説論を聞いた少年たちは、あまりに生臭い実情を突き付けられたことで、思わず鼻白んだ顔付きになる。それでも、即座には素直に矛(ほこ)を収めることは、その貧弱な自尊心が許さぬらしく、またもや口々に反駁を試みる。
「そんなの嘘だ!こっちが何も知らないからって、いい加減なことを言うな!被害者から救助費用をふんだくるなんて、話が逆じゃねェか」
それに対して、雄介は、
「勘違いするな!本末転倒は、お前たちの方だ。山での事故や遭難は、本来すべて自己責任において処理されねばならないものなんだぞ。ましてや、立ち入り禁止の注意看板やロープが設置されていることを認識しながら、それに従わず、必然として事故に巻き込まれた奴などに、誰も同情なんかしない。それが、現実というものだ。甘ったれるな!」
「・・・・・・・・・」
ここまで言われては、少年たちに、もはや反論の余地はなかった。彼らは、雄介に促されるがままに、渋々ゲレンデへと戻リ始める。ちょうど、一人が雄介の前を通り過ぎようとした時、
「ちょっと待て-------」
雄介は、声を掛けると、雪の上に転がっているペットボトルの容器を指差し、拾っていくように指示した。少年は、如何にも面倒くさそうにではあったが、それでものろのろとした動作で、落ちているキャップとボトルを拾い上げ、少しふてくされ気味の小声ではあったが、
「------どうも、すみませんでした」
と、詫びる。そして、ようやく、ゲレンデへ戻った三人は、各自カラフルなスノーボードを巧みに操りながら、次々に斜面を滑り降りて行った。
そんな少年たちの後ろ姿を見送った雄介は、いささか複雑な気分を抱えつつ、時任のそばへと滑り戻る。時任は、例の如く気難しげな雰囲気を、その端整な横顔に刻みつつ、あえて、雄介から視線をそらすような態度で佇む。
「おれ、出過ぎたまねをしたのでしょうか?」
雄介が、口吻(こうふん)にやや懸念をのぞかせると、意外や、時任は、ほんの刹那ふっと頬を緩ませ、
「出し抜けに金銭(かね)の話を持って来たのは、多少えげつなかったが、新入りの初仕事にしては上出来だ。よく辛抱したよ」
思いがけない時任の優しい言葉に、雄介は、ようやく身体中に張り詰めていた不自然な凝りが、ゆっくりと解(ほぐ)れて行く感覚にも似た、ある種の安堵感を感じたのであった。そこで、ちょっと自慢の芽をのぞかせ、胸をそらすと、
「これでも一応、教育学部卒業ですから、青少年の心理状態に関する知識の基礎は、ほぼ学習済みでしてね。そいつを少々応用してみただけのことですよ」
雄介は、さも当然だと言わんばかりに嘯(うそぶ)いた。
<この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空の物ですので、ご了承下さい>
~今日の雑感~
NHKのクローズアップ現代という番組で、知らないうちにパソコンに感染させられ、まったく意図せぬサイバーテロの片棒を担がされるといった、ボットネットという新手のウイルスが出現したとの情報を取り上げていました。
ある悪意を持った人物が、世界中のごく一般家庭のパソコンにこのウイルスを感染させると、パソコンの所有者は、自分のパソコンがそんなウイルスによって恐ろしい力を発揮しているとは全く気付かぬまま、悪意の者に操られる形で、特定の企業のパソコンに大量のめちゃくちゃな情報を流し続け、その企業を業務継続不能にしてしまうのだとか・・・・。そのめちゃくちゃな情報が、その特定の企業に向けて、世界中から一気に大量流入し、企業の情報処理が全く機能しなくなったところを見計らって、ウイルスを感染させた者が、「この攻撃をやめて欲しかったら、言う通りにしろ」と、金銭を要求してくるとのこと。
とんでもないウイルスが出来てしまったものです。たとえば、これまでのコンピューターウイルスといえば、大体が、パソコンの画像を破壊したり、パソコン内部の情報を混乱させたりするものだったそうですが、これは、パソコン自体にまったくアクセスが出来なくなってしまうというものだそうで、情報の集積や送受信をすべてコンピューターに頼っている、現代の企業状況にとっては、正に致命的です。こんなニュースを見るにつけても、昔のように、情報は全部大学ノートやルーズリーフの帳面に手書きで記入していた頃ならば、このような犯罪に巻き込まれることもないのにと、思ってしまうのは、わたしだけでしょうか?
そういえば、この前、「ナガブロ」も、まったく画面が動かなくなってしまった時が・・・・。これって、まさか・・・ですよね・・・・。
「おい、聞こえないのか?そこは危険だから、早くこっちへ上がって来いと言っているんだよ」
それでも、少年たちは、胡散臭そうな目つきで、如何にもうるさいといった表情をこちらへ向けて来るだけである。
「・・・・・・・」
「------どうした、新米?しっかり、説得してみろよ」

困惑の顔色を隠せない雄介の心中などお構いなしに、時任は、急かせるような口ぶりでゲレンデ上から催促して来る。その口元は、明らかに薄笑いを浮かべているのが判った。そんな時任の態度にも、ついに辛抱出来なくなった雄介が、
「おい!いい加減、話を聞いたらどうなんだ!?」
思わず声を荒らげた時である。少年たちは、いきなりその場に立ち上がると、故意に雪面を蹴散らかしたり、こちらに向って前に突き出した手の中指を立てる仕種をするなど、しごく挑戦的な態度に出たあげく、ついには、雄介目がけて飲みかけのペットボトルを投げつけて来たのだった。
プラスティックのボトル容器は、飲み口の蓋が中途半端にしか閉められていなかったため、雄介の左胸にぶつかった途端、中の液体が飛び出して、支給されたばかりの真新しいユニフォームを濡らした。
「スキーパトロールだからって、格好つけるんじゃねえよ、おっさん!何処で滑ろうが、おれたちの勝手じゃねェか!人が作ったコースなんかで満足出来る訳ねェだろう。うざったいんだよ!」
少年の中の一人が険しい形相で噛みつくと、他の二人もつられたように、
「オフピステ(新雪面)で滑りたい!オフピステで滑りたい!」
と、まるで歌でも歌うように連呼し、囃したてる。結局、彼らには、自分たちが今とても危険な状態に直面しているのだという実感が、ほとんどないのであった。
「-------------!」
雄介の胸中を、ほんの一瞬ではあるが、こんな輩はいっぺんマジで死ぬほどの恐怖を味わってみればいいんだという、憤りがよぎった。が、そこは、何とか気持ちを堪えて、そのような感情の高ぶりなど噯気(おくび)にも出さぬ冷静さで、淡々と続ける。
「そうか、それじゃァ、好きにするさ。でも、一つだけ教えておいてやる。もしも、お前たちが、忠告を無視した結果事故に遭ったとしても、お前たちの意思には関係なく救助隊は出動するんだ。一応の決まりだからな。そうなれば、お前たちが生死にかかわらず発見されようが、また、発見されなかろうが、当然のことながら、救助費用がお前たちの家族に請求されるという訳だ。
この救助費用だが、いったい一日の相場で幾らくらいが遭難者やその家族の負担となるのか知っているか?一般人による救助活動に加えて、捜索ヘリ(ヘリコプター)まで出動しようものなら、遭難者一人につき百万円は下らない計算になるんだぞ。それが、三日、四日と続いたら、家族はどういう状況に置かれことになるのか、如何に脳天気なお前たちにも、想像ぐらいはつくはずだ。よく考えてみろ」
この雄介の説論を聞いた少年たちは、あまりに生臭い実情を突き付けられたことで、思わず鼻白んだ顔付きになる。それでも、即座には素直に矛(ほこ)を収めることは、その貧弱な自尊心が許さぬらしく、またもや口々に反駁を試みる。
「そんなの嘘だ!こっちが何も知らないからって、いい加減なことを言うな!被害者から救助費用をふんだくるなんて、話が逆じゃねェか」
それに対して、雄介は、
「勘違いするな!本末転倒は、お前たちの方だ。山での事故や遭難は、本来すべて自己責任において処理されねばならないものなんだぞ。ましてや、立ち入り禁止の注意看板やロープが設置されていることを認識しながら、それに従わず、必然として事故に巻き込まれた奴などに、誰も同情なんかしない。それが、現実というものだ。甘ったれるな!」
「・・・・・・・・・」
ここまで言われては、少年たちに、もはや反論の余地はなかった。彼らは、雄介に促されるがままに、渋々ゲレンデへと戻リ始める。ちょうど、一人が雄介の前を通り過ぎようとした時、
「ちょっと待て-------」
雄介は、声を掛けると、雪の上に転がっているペットボトルの容器を指差し、拾っていくように指示した。少年は、如何にも面倒くさそうにではあったが、それでものろのろとした動作で、落ちているキャップとボトルを拾い上げ、少しふてくされ気味の小声ではあったが、
「------どうも、すみませんでした」
と、詫びる。そして、ようやく、ゲレンデへ戻った三人は、各自カラフルなスノーボードを巧みに操りながら、次々に斜面を滑り降りて行った。
そんな少年たちの後ろ姿を見送った雄介は、いささか複雑な気分を抱えつつ、時任のそばへと滑り戻る。時任は、例の如く気難しげな雰囲気を、その端整な横顔に刻みつつ、あえて、雄介から視線をそらすような態度で佇む。
「おれ、出過ぎたまねをしたのでしょうか?」
雄介が、口吻(こうふん)にやや懸念をのぞかせると、意外や、時任は、ほんの刹那ふっと頬を緩ませ、
「出し抜けに金銭(かね)の話を持って来たのは、多少えげつなかったが、新入りの初仕事にしては上出来だ。よく辛抱したよ」
思いがけない時任の優しい言葉に、雄介は、ようやく身体中に張り詰めていた不自然な凝りが、ゆっくりと解(ほぐ)れて行く感覚にも似た、ある種の安堵感を感じたのであった。そこで、ちょっと自慢の芽をのぞかせ、胸をそらすと、
「これでも一応、教育学部卒業ですから、青少年の心理状態に関する知識の基礎は、ほぼ学習済みでしてね。そいつを少々応用してみただけのことですよ」
雄介は、さも当然だと言わんばかりに嘯(うそぶ)いた。
<この小説はフィクションです。登場する人物名及び団体名は、すべて架空の物ですので、ご了承下さい>
~今日の雑感~
NHKのクローズアップ現代という番組で、知らないうちにパソコンに感染させられ、まったく意図せぬサイバーテロの片棒を担がされるといった、ボットネットという新手のウイルスが出現したとの情報を取り上げていました。
ある悪意を持った人物が、世界中のごく一般家庭のパソコンにこのウイルスを感染させると、パソコンの所有者は、自分のパソコンがそんなウイルスによって恐ろしい力を発揮しているとは全く気付かぬまま、悪意の者に操られる形で、特定の企業のパソコンに大量のめちゃくちゃな情報を流し続け、その企業を業務継続不能にしてしまうのだとか・・・・。そのめちゃくちゃな情報が、その特定の企業に向けて、世界中から一気に大量流入し、企業の情報処理が全く機能しなくなったところを見計らって、ウイルスを感染させた者が、「この攻撃をやめて欲しかったら、言う通りにしろ」と、金銭を要求してくるとのこと。
とんでもないウイルスが出来てしまったものです。たとえば、これまでのコンピューターウイルスといえば、大体が、パソコンの画像を破壊したり、パソコン内部の情報を混乱させたりするものだったそうですが、これは、パソコン自体にまったくアクセスが出来なくなってしまうというものだそうで、情報の集積や送受信をすべてコンピューターに頼っている、現代の企業状況にとっては、正に致命的です。こんなニュースを見るにつけても、昔のように、情報は全部大学ノートやルーズリーフの帳面に手書きで記入していた頃ならば、このような犯罪に巻き込まれることもないのにと、思ってしまうのは、わたしだけでしょうか?
そういえば、この前、「ナガブロ」も、まったく画面が動かなくなってしまった時が・・・・。これって、まさか・・・ですよね・・・・。

Posted by ちよみ at 11:04│Comments(2)
│~ 炎 の 氷 壁 ~
この記事へのコメント
こんばんは。
確かに「ナガブロ」、時々レスポンスが帰って来なくなる時がありますね(^^;
夜10時過ぎくらいとか。多分アクセスが集中する時間帯なんでしょうけど。
今の時代、経済活動のみならず、国の根幹を支えるありとあらゆるものがインターネットを利用してますし(というかインターネットの原型って元々軍事利用目的で開発されたものだそうですけど)、先進国にとってはサイバーテロが一番現実的に恐ろしい脅威ですね。
一国のインフラ全てを機能不全にしてしまう事だって出来ますもんね。
便利なものの裏側には必ず落とし穴があるってことでしょうかね。
確かに「ナガブロ」、時々レスポンスが帰って来なくなる時がありますね(^^;
夜10時過ぎくらいとか。多分アクセスが集中する時間帯なんでしょうけど。
今の時代、経済活動のみならず、国の根幹を支えるありとあらゆるものがインターネットを利用してますし(というかインターネットの原型って元々軍事利用目的で開発されたものだそうですけど)、先進国にとってはサイバーテロが一番現実的に恐ろしい脅威ですね。
一国のインフラ全てを機能不全にしてしまう事だって出来ますもんね。
便利なものの裏側には必ず落とし穴があるってことでしょうかね。
Posted by ま・こと at 2009年02月21日 00:21
ま・ことさんへ>
こんばんは。
本当に、インターネットという強大な力は、ある意味地球の別次元に、まったく異なる世界を作り上げているといってもいいほどの、存在になりつつありますね。そこには、国などとは関係ない不思議な連合体が既に出来上がっているような気さえします。
わたしの母などに言わせますと、気持ちの悪い代物だとか・・・。(~_~;)
もし、サイバーテロによってすべての国家機能が狂わされてしまったら、我が国の物流も貨幣価値も何もかもが空中分解してしまうかも・・・。想像すると怖いです。
ところで、ま・ことさんは、色鉛筆を買われたそうですね。もしよろしかったら、今度、描かれた絵をブログにアップして下さい。楽しみにしています!
こんばんは。
本当に、インターネットという強大な力は、ある意味地球の別次元に、まったく異なる世界を作り上げているといってもいいほどの、存在になりつつありますね。そこには、国などとは関係ない不思議な連合体が既に出来上がっているような気さえします。
わたしの母などに言わせますと、気持ちの悪い代物だとか・・・。(~_~;)
もし、サイバーテロによってすべての国家機能が狂わされてしまったら、我が国の物流も貨幣価値も何もかもが空中分解してしまうかも・・・。想像すると怖いです。
ところで、ま・ことさんは、色鉛筆を買われたそうですね。もしよろしかったら、今度、描かれた絵をブログにアップして下さい。楽しみにしています!
Posted by ちよみ
at 2009年02月21日 00:53

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