ちょっと、一服・・・・・⑭
2009年03月17日
< ピ ア ノ 室 の 怪 >
わたしが通っていた高校は、カトリック系のミッションスクールだったという話は、以前の「ちょっと、一服・・・・・」にも書かせて頂きましたが、やはり、そういう宗教関係の学校だったからでしょうか、俗にいう七不思議とまでは行かないまでも、案外、ミステリアスな話題は、校内のあちらこちらに転がっていまして、これからお話しする「ピアノ室」にまつわる不思議な話も、生徒たちの間では、代々語り継がれていたものの一つでした。
こういう、学校の怪談めいた話に興味をお持ちの方は、「ああ、自分の卒業した学校にも、こんな話があったなァ」と、思い出されることでしょう。------では、本日も、最後まで、お付き合いください。

わたしが通っていた高校は、市街地の高台に位置していまして、構内にはカトリックの聖堂もある閑静な趣の建物でした。
そこは、音楽教育にも熱心に取り組んでいる校風でしたので、校舎内には、幾室ものピアノ室も用意されていて、そのピアノ室ごとに、一台のピアノが据えられ、室内は、厚い防音壁で覆われ、生徒は、使用時間を申し出ることで、誰でもそのピアノを利用することが出来ました。
ピアノ室を使う生徒たちの中には、もちろん、音楽大学を目指すような本格的な勉強のためにピアノの練習をする者もいれば、単に授業の合間の気分転換に曲を弾きたいという者もいます。わたしと同じクラスのその女生徒も、どちらかと言えば、後者に当たるものでしたが、ピアノを弾くのが大好きで、時々、そのピアノ室を利用しては、クラシックのピアノ曲を楽しんで弾いていました。
その彼女が、期末試験明けのある日、「ピアノ室へ一緒に行かない?あたしが弾く曲、聞いてみてよ」と、わたしを誘うので、正直、あまり気乗りはしなかったのですが、卒業までに一度くらいは、そのピアノ室なる物を見ておくのも後学のためかと思い、付いて行くことにしました。それというのも、わたしには、ピアノに対する一種の軽いトラウマがあり、何も、学校に来てまでピアノを見ることはないだろうと、思っていたものですから、多分、その時、彼女に誘われなければ、一度も、その場所へは行くことなく終わっていたに違いありません。
使用を申請する時に借りた鍵で扉を開け、ピアノ室の一つへわたしたちが入ると、その女生徒は静かに扉を閉め、おごそかな顔付きでピアノの前へ腰かけて、普段の彼女からは想像できないような力強いタッチで、「乙女の祈り」を、弾き始めました。わたしは、その間彼女の脇に立ち、(これは、『乙女の祈り』というよりも『乙女の絶叫』だなァ・・・・)などと考えながら、それを黙って聴いていたのですが、ふと気が付くと、その部屋の入り口付近の壁にある、何やら、数本の引っかき傷のような物に目が留まりました。
その壁の傷跡は、ちょうど、人間が手の指を広げて爪を立てたような感じのもので、誰かが悪戯に手で引っ掻いたのかとも思っていました。やがて、彼女のピアノ演奏も終わり、「どうだった?」と、自分の腕前の評価を訊ねるので、「うん、とってもよかったよ。〇〇ちゃんは、ピアノ上手なんだね」などと、上手を言ってから、ピアノ室の使用時間も終わりに近付いたので、二人してそこを引き揚げました。
ところが、わたしは、さっき見た壁の傷跡のことが何故か気になって仕方がありません。そこで、教室へ戻る途中で、その女生徒に、そのことをさりげなく話しました。すると、彼女は、にやにや笑いを浮かべ、「やっぱり、気が付いたんだ」と、言います。「あの傷ね、あれは、確かに、人間の引っかき傷なんだって」「誰か、悪戯でもしたの?」と、わたしが訊きますと、「そうじゃないよ。あのピアノ室、ちょっと噂があってさ。今日は、あそこの鍵しか貸してもらえなかったから、仕方なく使ったけれど、普段は、みんなあの部屋は敬遠するんだよ」と、何とも意味深長な言い方をします。わたしが、更に訊きただしますと。「これは、あくまで、先輩から聞いた噂なんだけどね----」と、前置きした後で、「今から十年ぐらい前、あのピアノ室の中で、女子生徒が一人死んだんだって-----。その生徒、夏休みに、ピアノの練習に学校へ来て、練習中に眠り込んでしまい、気が付いたら、部屋には廊下側から鍵がかけられていて、どんなに叫んでも誰も来てくれずに、閉じ込められたまま夏休みが終わって------。みんなが新学期に登校して来た時に、やっと発見されて、その時は、もう、餓死していたんだってさ」と、言います。「じゃァ、もしかして、あの引っ掻き傷って------?」わたしが半信半疑で訊きますと、彼女は、そうと、頷き、「出して欲しいと、必死に爪で引っ掻いた跡なんだって。発見された時は、爪痕があちらこちらにあって、部屋中すごい状態だったそうなんだけど、あとで上から壁紙を張って隠したんだって。でも、どうしても、あそこの一か所だけが、浮き出て来てしまうんだって・・・・」と、真顔で話します。
でも、その生徒がここへピアノの練習に来ていることは、家の人だって知っているはずだから、帰宅しないと判れば、学校へ真っ先に探しに来たんじゃないのかな?と、わたしが言いますと、彼女は、「その子、実家から通っていたんじゃなくて、家の人が借りてくれた市内のアパートで独り暮らしだったんだって。だから、誰も気付いてあげられなかったんじゃないの?」と----。「でね、今でも、夏休み頃になると、誰もいなくなった校舎の中に、ピアノの音が鳴り響くんだってさ」そういった瞬間、その女生徒が、わたしの首を、両手で絞めて来たものですから、「ギャ~ッ!

でも、本当に、そんなことがあるのでしょうか?どだい、高校生の噂話なんてものは、年数を経るうちに、いつしか尾ひれがついてどんどん膨らんでいくものですから・・・・。真偽のほどは、今もって判りません・・・・。(~_~;)
では、引き続き、「炎の氷壁」を、お読み下さい。