入院病棟24時 7・・・・・114

~ 今 日 の 雑 感 ~


入院病棟24時 Ⅶ


    病院食とは、おしなべて、あまりおいしいとは思えないものです。

    栄養士さんたちは、それでも患者が飽きないようにと、毎日一生懸命、味付けとカロリー、栄養価などに気を付けながら食事のメニューを考えて下さっているのです。

    しかし、そんなことにはお構いなく、とかく食事に文句を付ける患者もいるのです。

    今回、わたしが入院した六人部屋の病室には、やはり、そんな食事クレーマーの女性が一人いました。年齢は七十代で、お腹の調子が悪いといって入院していた人です。

    しかし、担当医の外科の先生が身体の隅々まで調べたところ、彼女の身体は、何処にも異常が見つからないということだったのです。お腹が痛かったり、下痢をしているのも、結局は、年のせいと、暑さで消化不良を起こしているのだとのことでした。

    そこで、先生は、明日にでも退院して結構ですと、その女性患者に告げました。でも、女性は、こんなに体調が悪いのに、家へ帰ることなど出来ないと、言います。それでも、何処も悪くない患者をいつまでも入院させておく訳にはいかないと、先生は言います。

    「退院して下さい」

    「もう少し、ここに居させて」

    二人の押し問答は続き、結局、結論は出ませんでした。

    その日の夕食時、女性患者のご飯に、いつものおかゆではなく、普通の白米のご飯が出ました。途端、女性は、メニューが違うと、言いだし、おかゆと取りかえて欲しいと、いいます。

    看護師さんは、先生からの指示で、普通のご飯になっているのだから、これを食べて下さいといいますが、女性は聞きません。看護師さんは、困り顔で、どこかからおかゆを持って来て、その普通のご飯と取りかえました。

    すると、今度は、お味噌汁がしょっぱ過ぎると言い出したのです。

    「うちは、すごくうす味だから、こんな味噌汁は飲めない。減塩のに取りかえて」

    と、言います。看護師さんは、もう呆れた顔で、今日は、これで我慢して下さいと、言って帰って行きました。すると、その女性患者は、だったらこんなの飲まないよと、むっとして、味噌汁にも、おかずにも、手を付けませんでした。

    そして、翌日の朝食。看護師さんは、その患者のための特別メニューを作ろうと栄養士さんと話をして来たと、女性に伝えると、女性は、

    「もう、いいんだよ、そんなこと。どうせ、うちの味のようにはいかないんだから、おかずを付けるなら、刺身でもつけてよね」

    これには、看護師さんも驚き、ここはホテルじゃないんだからと、今にもキレそうな口調で返しました。そして、先生から退院許可が出ているんですから、週明けにも退院して下さいねと、言い置き、病室を出て行ってしまいました。

   そして、今度は、別の看護師さんが来たところ、彼女は、今日はお風呂に入りたいと言い出したので、その看護師さんが、ご自分で入れますよねと、言ったのですが、彼女は、背もたれの椅子がないと一人では座っていられないと、言います。

   背もたれの椅子なら、浴室に用意してありますから、使って下さいと、看護師さんが答えると、自分一人では体を洗えないので、洗って欲しいと、頼みます。

   「もう、かなりの日数お風呂に入っていないんだよ。うちじゃァ、誰もわたしを風呂へ入れてくれなかったからね」

   要するに、この女性は、病院へ来れば、入浴も食事も、思ったようにさせてくれるはずだと、考えて入院したようでした。

   たった一日で退院したわたしは、その女性がその後どうなったのか知りませんが、あの様子だと、そう簡単に家に帰るとも思えません。

   現在、こういった自宅に居場所がないお年寄りが増えていると聞きます。病院は、そういう人たちの駆け込み寺にもなっているようなのです。しかし、そういう患者が、病室のベッドを占領してしまうと、本当に重病の患者が入院出来なくなってしまいます。

   難しい現実が、こんな身近にもあるのだと、思い知らされました。  続きを読む