入院病棟24時 8・・・・・117

~ 今 日 の 雑 感 ~


入院病棟24時 Ⅷ


    今回の入院でわたしの隣のベッドにいた五十代後半と思しき女性のところには、ずうっとご主人が付き添っていた。

    しかし、その女性は、別にそれほど大した病気というわけではなさそうであったが、この日の午後に手術を控えているようであり、その話し声が、カーテン越しにはっきりと聞こえて来た。

    ご主人 「もうすぐ手術なんだから、少し大人しく寝ていた方がいいんじゃないのか?」

    女性  「いいんだよ。大した手術じゃないんだし、局部麻酔だそうだから、三十分もすれば終わるんだって」

    ご主人 「そうかもしれないけれど・・・・」

    
    そのうちに、わたしの手術の順番が来て、一時間半ほどで終わり、また病室へ戻ってみると、その女性患者も既に手術を終え、早ばやベッドへ帰って来ていた。

    わたしは、まだ麻酔が効いていて、ベッドへ寝転がるなりグンニャリしていると、閉じられたカーテン越しに、その女性のところへ、同じ年頃の女性の見舞客がやって来て、何とも、大声で話を始めたのだ。

    女性患者も、今、手術を終えて来たばかりとは思えない元気の良さで、やはり大きな声で笑いながらおしゃべりをしている。

    流石に、ご主人が、小声で、

    「お隣の人、今、帰って来たばかりなんだから、もう少し声を小さくしたらどうだ?」

    と、諫めたが、女性患者は、まったく意に介さず、

    「なに、あんな人、大した手術じゃないんでしょ。どうせ、一泊入院なんだし、関係ないよ」

    そう言って、見舞客が持ってきたアイスクリームを食べ始めてしまった。驚いたご主人は、まだ、麻酔もはっきりさめてはいないんだから、そんなものは食べない方がいいと、言ったが、彼女はきかない。

    見舞いの女性と一緒に、アイスを食べきってしまい、その上、まだ他にも食べたようである。

    そして、夕食時間、患者一人一人に食事が運ばれて来たが、わたしは、その女性患者の態度があまりに不遜であったのが面白くなかったので、隣との仕切りのカーテンを締めたままにしておいた。

    彼女は、「何よ、カーテンも開けないんだ」と、ボソリと口に出してから、いざ、食事に箸を付けようとした瞬間、いきなり、

    「か、看護婦さん・・・・・」

    と、変な声を出した直後、お腹の中の物を一気に戻してしまった。驚いた看護婦が、その汚れを始末したのち、「どうしたの?気分悪い?」と、訊ねると、彼女の斜め前のベッドにいる別の年配の女性患者が、

    「手術したばかりなのに、あんなにいろいろ食べるからだよ」

    と、説明する。看護師は、さらに驚き、「先生に報告しておきますから」と、言って、病室を出て行ってしまった。

    そんなことがあった翌日の朝食の時間、その五十代の女性の憤懣は、今度は、斜め前のベッドの年配の女性に向けられた。

    女性     「あんたさ、働いてんの?」

    年配の女性 「シルバー人材に登録しているからね」

    女性     「ふーん、で、子供は女一人なんだ。一人しか産めなかったんだね」

    年配の女性 「ううん、もう一人いたんだけれど、死んじゃったんだよ」

    女性     「でも、旦那は、ただの職人なんでしょ?よかったじゃん、一人で」


    年上の女性に、モロ、ため口である。そこで、わたしは、その会話に割って入り、病院移転の話に話題をすり替えてやった。これには、年配の女性も関心があり、他の女性患者たちも加わって、かなり話は弾んだ。


    そして、わたしが退院する時、その年配の患者や、他の患者は、口々に、「いいねェ、もう退院で」「もう、行っちゃうの?」などと、言葉をかけてくれたが、その隣の女性患者だけは、寝たふりをして、知らん顔だった。

    あ、もう一人、病気は何処にもないので早く退院をして欲しいと促されていた、七十代の女性も寝ていたが・・・・。


    たった一日の入院だったが、何やかやと、様々なことがあったものである。  

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