探してくれませんか?・・・・・110
2009年07月28日
< 不 思 議 な 話 >
探してくれませんか?
夏休みですからね~。やっぱり、これでしょう!!
----ってなことで、またひとつ書いてみました。では、ごゆるりと、お読み下さい。

昭和六十年のある夏の蒸し暑い夜のこと、信州にある高原の山道の国道を、一台の大型トラックが走っていました。
運転していたのは、地元の運送店経営の四十代の男性で、山のホテルまで宿泊客の荷物を届けた帰り道でした。
真っ暗な狭い国道を、トラックのヘッドライトだけを頼りに麓へと下って行くのですが、ほとんど毎日のように行き来している道ですから、運転も手慣れたもので、鼻歌まじりにハンドルを握っていました。
既に、夜も更けていたため、走っている自動車は、男性のトラック以外、一台もなく、男性は、早く家へ帰って冷たいビールで一杯やりたいと、そんなことばかりを考えていました。
しばらくすると、国道が大きく右にカーブする林道沿いに差し掛かります。
男性は、いつものように巧みなハンドル操作で、そのカーブを難なく過ぎたその直後、目の前のヘッドライトの中に、いきなり、一人の男の姿が浮かび上がりました。
男は、道路の真ん中で大きく両手を広げて、男性のトラックを制止するような仕種を見せたのですが、時すでに遅く、急ブレーキをかけたものの、トラックは、その男の姿を車体の下へ巻き込んでしまったのでした。
「しまった!!」
男性は、仰天し、慌ててトラックを停めました。そして、車内から外へ降りると、今、そこにいた男の様子を確かめるべく、トラックの車体の下を覗き込みます。
しかし、そこには誰の姿もありません。もしかしたら、跳ね飛ばしていまったのかもしれないと、トラックの車内から懐中電灯を持ち出して、辺りをくまなく探してみました。が、それらしき男の姿は、やはり何処にも見当たらないのです。
「おれの見間違いだったのかな・・・・?」
男性は、冷や汗を拭き、不思議に思いながらも、やや安堵の胸を撫でて、再びトラックへ戻ると、そのまま国道を走行し始めました。しかし、たった今のショックのせいか、やけに喉が渇いて来たので、何処かに自動販売機があったはずだと思い、山道を下る途中、古いバス停の小さな建物の辺りで、運よく清涼飲料水の自動販売機の灯りを発見しました。
男性は、ガードレールのある路肩にトラックを止め、その自動販売機に近付くと、投貨口にお金を入れて、缶入りのコーラを出し、その場でそれを飲み始めました。
そして、ようやく人心地ついた時、背後に何かの気配を感じて、思わず振り返りました。すると、自動販売機の灯りの中に、ぼんやりと一人の男が立っているではありませんか。
男性は、奇妙なうすら寒さを覚えながら、その男に向かい、
「おれは、もういいから、どうぞ使って下さい」
と、場所を空けようとしたところ、その男が蒼白い顔で、男性にこう言ったのです。
「------探してくれませんか?」
「探すって、何か落し物でもしたのかい?」
「ええ、そうなんです・・・・。一緒に、探してくれませんか?」
男性は、少しばかり、薄気味悪さを感じながらも、もう一度、その男に訊きました。
「だから、何を探せばいいんだい?」
すると、男は、ほんの少しさびしそうな微笑を浮かべると、低い声で、こう言ったのです。
「わたしの、身体を、探して下さい・・・・」
「---------!?」
男性は、それを聞いた直後、何気なく男の下半身へ目を移しました。
と、そこにある筈の男の腰から下が、完全に闇の中に溶け込んで、まったく見当たらなかったのでした。
「うわァッ!!」
男性は、驚愕し、手に持っていたコーラの缶を放り出すと、急いでトラックの方へ駆け戻ろうとしましたが、男は、そんな男性の腕をつかみ、物凄い力で引っ張りながら、
「お前が轢いたおれの身体を、探して欲しいんだよ!」
「放せ!化け物!」
男性は、叫ぶと、力任せにその男の手を振りほどき、一目散にトラックへ乗り込むと、めいっぱいアクセルを踏み、必死の思いでその場から逃げだしたのだそうです。
後日、男性が聞いた話では、この下半身がなかった男は、かつて、この国道で自動車事故に遭い、亡くなった人の地縛霊ではないのかということでした。
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