ちょっと、一服・・・・・31

< 不 思 議 な 話 >


 わたしの母方の伯父は、時々、不思議な体験談を色々と話して聞かせてくれます。その中でも、特に変わっているのは、自分の母親、つまりは、わたしの母方の祖母が、嫁に来るところを見ていたという話です。

 伯父の話はこうです。「おれは、まだ三歳ぐらいの子供だったが、近所の塀の上に腰を掛けていると、真っ白な綿帽子をかぶった白無垢の打ち掛け姿の若い綺麗なお嫁さんが、仲人さんらしき女の人に手を引かれながら、しずしずとおれの家の中へ入って行くのが見えたんだ。でも、おれには、その時よく判っていた。あのお嫁さんが、おれのお袋になるんだなってことがさ・・・・」

 ね?おかしな話ですよね。でも、この前、ある人が話してくれたのですが、そういうことって稀にあるそうなのです。その人の話は、こういうものでした。

小さな少年と飴 


 ある街の小さな本屋さんに、三十五歳になった陽子(仮名)さんという女性店員が働いていました。陽子さんは、真面目な従業員で、人当たりも良く、周囲の人たちからはとても慕われていたのですが、その年齢になっても未だに特定の恋人などは出来ず、もう半ば結婚は諦めていました。
 そんなある日のこと、脚立にのぼり、店の棚の上の方の本を入れ替えていた時のことです。足元の方で何やら動く気配がしたので視線を落とすと、そこには四、五歳の可愛い男の子が一人で立っていました。その男の子は、ニコニコ笑いながら、嬉しそうに陽子さんを見上げているので、彼女は脚立から降りると、男の子の前へ屈み込み、
 「坊や、何処から来たの?お父さんか、お母さんは、一緒?」
 と、訊ねたのですが、男の子はそれには何も答えず、
 「おばちゃん、陽子さんでしょ?ぼく、まこと(仮名)・・・・。これ、おばちゃんにあげる・・・・」
 そう言うと、小さな手で、自分のズボンのポケットから可愛らしい模様の紙にくるまれた飴玉を一つ取り出し、陽子さんにくれたのでした。
 「ありがとう・・・・・」
 不思議な思いで、陽子さんがお礼を言うと、少年は、今度は、店の入り口の方をしきりに気にするそぶりを見せて、
 「あのね、おばちゃん、もうすぐここへ男の人が入って来るの。その人が来たら、優しくしてやってね・・・・」
 と、言います。陽子さんは、更に、怪訝に感じたものの、
 「それが、坊やのパパなの?」
 と、訊くと、少年は、ちょっと、小首を傾げて、
 「・・・・判んない」
 「判んないって、それどういうこと------?」
 陽子さんが再び訊ねた時でした。店の入り口に四十歳ぐらいの背の高い男性客が一人現われたので、陽子さんは、その男性客の方へ一瞬目を移し、
 「いらっしゃいませ」
 と、元気に声を張って立ち上がったのち、もう一度少年の方へ顔を向けると、奇妙なことに、その少年の姿は既に何処にもありませんでした。おかしな子供だったなァ------と、陽子さんは、釈然としないものを感じながらも、その男性客の方へ歩み寄り、
 「何かお探しのご本でもおありですか?」
 そう声を掛けると、その男性客は、静かな口調で、地元の歴史の専門書を探しているんですが・・・・と、言いますので、陽子さんは、さっき棚の上の方へ入れたばかりの本にそれらしきものがあったことを思い出して、もう一度脚立に上ろうとしました。が、その途端、バランスを崩して、何と、その男性客の上へ落下!男性客は、驚く間もなく、咄嗟に陽子さんの身体を受け止め、事なきを得ましたが、陽子さんは、大赤面で、男性客に向かって、ごめんなさいの連発となってしまいました。
 

 それから半年が過ぎ、陽子さんは、結婚しました。相手は、その時の男性客でした。彼は、地元私立高校の教師で、陽子さんは、ほどなくして妊娠。勤めていた本屋さんも辞めて、翌年には、元気な男の子を出産しました。夫婦で子供の名前を考えている時、夫がふっと思い付いたように、 
 「きみが、ぼくと初めて出会ったあの日に見たという、その男の子の名前を付けないか?彼は、ぼくたちのキューピッドなんだから」
 と、提案するので、陽子さんも異論なく、男の赤ん坊は『誠(まこと)』と、命名されました。

 やがて、その誠も、三歳となり、近くの保育園に通うようになると、陽子さんは、再び、以前の本屋さんで働き始めました。すると、それから一年ほど経ったある日のこと、誠が独りで保育園から帰って来るや、陽子さんのいる本屋さんまで来て、ニコニコ笑いながら、
 「今日は、お母さんにいいものあげるよ」
 と、言うなり、自分の園児服のポケットから何かをつかみだし、陽子さんの掌(てのひら)に載せたのです。それは、可愛い紙に包まれた一つの飴玉でした。俄に、過去の出来事を思い出した陽子さんが、びっくりしながら、
 「これって、お母さん前にも・・・・・」
 「うん、ちょっと、お祝ね。ぼくが前にお母さんにあげたのはミカン味だったけど、今度のは、イチゴ味なんだよ。だって・・・・」
 と、誠は少し言葉を選んでから、胸を張るようにして嬉しそうに言いました。
 「だって、今日は、ぼくがお母さんとお父さんを出会わせた日なんだもん」



  こんな不思議な話なら、幾つ聞いても楽しいですよね。icon06
  


Posted by ちよみ at 00:20Comments(4)不思議な話