外湯の鍵が消えた!?・・・・・52

~ 今 日 の 雑 感 ~

外湯の鍵が消えた!?


    先月のことです。近所の八十代のお婆さんが、わたしの家へ来て、外湯へ入りに来たんだけれど、鍵を貸してもらえないかと、いうのです。このお婆さんは、元看護師さんで、今でもとてもしっかりとした頭の良い方なのです。

    我が家の近くにある天然温泉の外湯は、近所の人の入浴専用で、入口にはマグネットタイプの鍵が掛っていますから、この鍵を鍵穴へ入れない限りドアは開きません。わたしが、鍵を持って来るのを忘れたんですか?----と、訊ねますと、そうじゃない、鍵は持って来たんだけれど、鍵穴へ差し込んでから何処かへ行ってしまったというのです。

    わたしには、いったい、どういうことなのかよく事情が呑み込めなかったのですが、とにかく、鍵を貸して差し上げれば、お風呂へ入ることだけは出来るであろうと思い、わたしが自家用の鍵を持って、お婆さんと一緒に外湯まで行きました。そして、鍵を開けて脱衣所へ入ると、既にそこにはお婆さんの入浴道具一式が置かれているのです。

    「ああ、鍵を開けて中へ入ったものの、また外へ出た時にドアが閉まってしまい、今度は入れなくなってしまったんですね」と、わたしが言いますと、お婆さんは、そうじゃないんだと言います。そこで、よくよく事情を聞いてみますと、こういうことだったようです。

    お婆さんは、背は百四十センチあるかないかの小柄な体の上に、足がかなり悪く、入浴道具を持って家から歩いて来るだけでも至難の技で、共同浴場へ辿り着くと、まず、足元に入浴道具を置き、手を精一杯のばして鍵穴へ鍵を差し込みます。ドアが開くと、鍵はさしっぱなしのままで、入浴道具を持つと、先に脱衣所の中へ入り、それから、もう一度外へ出て、鍵穴へ差し込みっぱなしの鍵を抜き、それを持って再び中へと入るのだというのです。ところが、この日に限って、もう一度鍵を取りに戻ったところ、その鍵が何処にも見当たらず、あれこれ考えている間にドアが閉まってしまい、今度は中へ入ることが出来なくなってしまったということなのでした。

    お風呂の鍵を紛失したと地区の役員さんに届け出れば、新しい鍵は、また貸与してもらえますが、それでも無料という訳には行きません。数千円単位のお金を支払わなければならないのです。わたしが、もしも鍵が出て来なかった場合は、別の鍵を貸与してもらえるまでは、うちへ来てもらえれば、わたしが開けて差し上げますよと、言いますと、お婆さんは、申し訳なかったと、買ってきたばかりの果物をお礼に下さいました。

    それにしても、お婆さんの鍵は何処へ行ってしまったのでしょうか?鍵を差し込んでから、それを取りに外へ出て来るまで、たった数十秒の事です。もしも、鍵が誰かに盗まれてしまったのだとしたら、それを盗んだ人は、お婆さんがいつもその時間にお風呂へ入り、鍵を一瞬でも鍵穴へ差し込んだままにしていることを知っている人物に他なりません。

    このお風呂の鍵は、誰でも手に入れられるというものではないので、無料共同浴場を利用したいという地域外から来る人には、とても魅力的な鍵なのです。また、その鍵を手に入れて、知人に売ってお金にしようとする不届き者も中にはいるようです。そんな訳で、お婆さんの鍵は、たぶん、もう見付からないでしょう。行動の遅いお年寄りを狙った悪質な窃盗だと思い、無性に腹が立ちました。




    
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