ちょっと、一服・・・・・40

~ 今 日 の 雑 感 ~


山道のあんパン




    毎度の山シリーズですが、これは、わたしの父親が経験したことです。

    わたしの父も山での山菜取りが好きで、若い時分は、よく近くの山へワラビやネマガリダケなどを採りに、何人かの友人たちと出掛けることがあったのですが、その最中、やはり、一度だけ道に迷ってしまったことがあったそうです。

    ある時、父は気の合う友人四人と志賀高原へ山菜を採りに出かけたのですが、帰り道を間違え、自分たちがいったい何処を歩いているのかも判らなくなってしまったのだそうです。こうなってしまうと、山道という物は不思議な物で、歩いても歩いても、また、同じような場所に出て来てしまうのです。

    父たちの場合は、自分たちの背丈ほどもある草藪の中を何とかかんとか分け出てみると、とても広い綺麗に舗装されている道路が現れるのだそうです。人っ子一人いないその道路をしばらく歩くのですが、やはり、何処へも辿り着かない。そこで、業を煮やし、また、脇道の草藪の中へと踏み行って、下山しようと試みるのですが、出たところが、また、例によって広い道路なのだそうです。

    食糧も持たずに来ていた父たちは、既に辺りも日が暮れかけて来たころ、お腹が空いてたまらなくなり、

    「まったく、えらいことになったなァ・・・・。昼飯前には帰る予定だったのに、これじゃァ、夕飯にもあり付けねえぞ」

    「だれか、お茶ぐらい持っていないのか?」

    そう訊ねられても、誰一人、そんなものは持って来ていなかったので、
 
    「自動車の所まで行きつければ、食い物ぐらいあるんだがなァ・・・・。山へなんか来なけりゃよかったなァ・・・・」

    そんな気弱なぼやきも出て来た時でした。突然、友人の一人が、その広い道路の上に何かが落ちているのを見付けました。皆がその物の周りへ歩み寄り、よく見てみると、それは、我が家の近所にあるパン屋さんの名前の入った大きな紙袋でした。父たちは、奇妙に思いながらも、そのズシリと重い紙袋を拾い上げ、

    「〇〇パン屋のやつだぞ。中に何か入っている-----」

    そっと開けてみると、何と、その中には、一つ一つビニール袋に丁寧に包まれた、今焼いたばかりというようなフカフカのあんパンと、缶コーヒーが入っていたのでした。しかも、その数が、ちょうど、あんパン五個に缶コーヒーが五本。

    「おい、ちゃんと、人数分あるぞ!すげェ!」

    「誰かの落とし物だな。まだ、新しいぞ」

    「どうして、こんな場所に、こんな物が落ちているんだ?しかも、ちょうど、おれたちの人数分だなんて、偶然にしても気味が悪いな・・・・」

    そんなことを言いながらも、五人は、顔を見合せ、そのあんパンの始末をどう付けようかと考えました。空腹は、既にピークです。

    「いいや、おれ、食っちゃうぞ!」

    一人があんパンを包むビニール袋を開けてかぶりつくと、残る三人も、袋を開き、パンを食べ始めました。缶コーヒーも飲みながら、うまいうまいと夢中で食べる友人たちを見ながらも、父だけは、どうしてもこの状況に納得がいかず、缶コーヒーは飲んだものの、あんパンには手が付けられなかったといいます。

    しかし、これで、少しは空腹が納まったために、父と友人たちは、残りのあんパン一つを入れた紙袋をぶら下げたまま、再び山道を歩き、ようやく、その日のうちに麓まで下山することが出来たのだそうです。

    山中に置きっ放しになってしまった自動車は、後日取りに行ったそうですが、その後も、あんパンを食べた四人の体調に別段の変化はなかったそうで、未だに父は、その時の状況が腑に落ちないと言っています。よく昔話にある、キツネに化かされた旅人よろしく、もしや、あれは馬糞ではなかったか------?などと、わたしは思ってしまうのですが、皆さんは、くれぐれも、不審な食べ物は口になさらぬように------。

    山道を歩く時は、たとえ近くにホテルや人家があると思っても、必ず、食糧と水分は、携帯しておいた方が、いざという時に便利だと思いますよ。では、お気を付けて、山歩きを楽しんで下さい。face02   続きを読む


Posted by ちよみ at 23:05Comments(4)不思議な話