入院病棟24時 3・・・・・50
2009年05月24日
~ 今 日 の 雑 感 ~
入院病棟24時 Ⅲ
「あたしのパンティーが盗まれたァ!」
外科病棟で同室だった一人の女性が、ある日突然叫んだのです。女性は、六十代後半の乳がん患者で、伊藤(仮名)さんといい、他にも色々な疾患を持っているため、この病室に既に一ヶ月ほど入院しているのです。が、もう入院生活にも慣れたもので、自分の下着類は、病棟内に設置されている洗濯機で自ら洗い、洗濯室の隣にある乾燥室に干して乾かしていたそうなのですが、その下着が乾いた頃を見計らって、取り込みに行ったところ、何故か、パンティーだけがなくなっていたのだそうです。
「どんなパンティーなの?」
同室の女性患者が訊きます。すると伊藤さんは、今にも爆発しそうなくらいの怒り顔で、
「紫色の、フリル付の可愛いやつなのよ。すごく気に入っていたのに-----。それに、高かったんだから」
「幾らぐらいなの?」
「三千円はしたわ。それも、外国製なんだもの」
六十代後半の女性が、外国製のフリル付のパンティーを履いているのか・・・・。わたしは、一瞬、その姿を想像し、何とも言えない鬱屈した笑い顔になってしまいました。(~_~;)それにしても、本当に盗まれたのでしょうか?伊藤さんの勘違いなのではないでしょうか?わたしが、そう思った時、女性看護師さんも同じことを考えたらしく、
「仕舞い忘れということはないですか?もう一度、戸棚の中を見てみたら?」
と、アドバイス。伊藤さんは、慌てて戸棚の中を捜しましたが、やはり見当たりません。そして、再び、乾燥室の中を点検するべく、その女性看護師さんと一緒に行ってみたのですが、やはり、見付からなかったそうです。
「この病棟には、下着泥棒がいるのよ!やだわ!きっと、盗ったのは、男の患者の誰かなのよ」
伊藤さんは、もう半ばパニック状態です。よほどのお気に入りのパンティーだったと見えて、今にも、看護師さんに犯人探しを依頼しそうな勢いです。わたしは、内心、入院するというのに、そんな高価なパンツを履いて来るなよ-----と、呆れ返りながらも、本当に、下着を盗む趣味のある人間が、この病棟にいるのだろうか?と、少々げんなりしていました。病気で入院しているのなら、治すことだけ考えていればいいのに、何で、そんな余計なことに労力を使うのかなァ・・・・。と、実に、馬鹿らしくもありました。看護師さんも、如何にも困惑顔になり、
「伊藤さん、そのパンティー、どうしても必要なの?もし、着替えの物がなかったら、ご家族の方に代わりを持って来てもらうように、お電話したら?」
「代わりなら、あるわよ。それに、もし出て来ても、変な男が触った奴なんて、もう履く気にはならないけれど、そういう変態が近くにいるなんて、気持ち悪いじゃないの」
確かに、伊藤さんの言うことにも一理あります。そこで、 同室の患者の中でも世話好きの一人のおばさんが、
「それじゃァ、もう一度だけ調べてこようか。洗濯物を洗い場に持って行く途中で何処かへ落としているってこともあるし、念入りに見て来るわ」
そう言って、部屋を出てからしばらく経ち、やがて、戻ってきたおばさんの手には、一枚の紫色のパンティーがのっかっていました。これじゃないの?-----と、言いながら、おばさんは、まだ湿った感触のそのパンティーを、伊藤さんに渡します。
「そう、そう!これよ!-----何処にあったの?」
満面の安堵感で訊ねる伊藤さん。
「洗濯機の洗濯槽に、へばりついていたわよ。あんた、中から取り出し忘れたんでしょ?」
世話好きおばさんは、答えます。その言葉尻には、人騒がせも大概にしてよ----と、いう、うんざり感がはっきりと読み取れました。わたしも、まあ、これ以上の大騒動(おおごと)に発展しないでよかったと、ほっとしました。
病院へ行く時は、極力、貴重品は持ち込まない方がいいと思います。それが、たとえ、フリフリのパンティーだとしても、万が一、紛失した時に大変な迷惑を周りの人たちに掛けることになりますし、ましてや、それが、病室内で起きた紛失事件などともなりますと、お互いの不信感が募り、あらぬ騒動を持ち上げる発端ともなり兼ねませんので、気を付けたいものだと、思いました。
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