ゆっくり話も出来ない!・・・・・383
2010年02月10日
~ 今 日 の 雑 感 ~
ゆっくり話も出来ない!
従姉が珍しく家にやってきた。
高齢の両親を自動車に乗せているが、よそから頂いた野菜や果物などを我が家でも食べて欲しいと、持って来てくれたのである。
「親たちを自動車に乗せたままなので、時間がないんだけれど、ちょっと、話聞いてくれる?」
と、言うので、わたしが、いいよと、答えると、
「あたし、最近、血圧がやたらに高くなって、三ヵ月にいっぺん病院へ行って診てもらっているんだけれど、降圧剤を飲むように言われちゃったのよ。肝臓も悪いっていうんだけれど、この前は、地域の検診にも行って来たの」
従姉は、とても不安そうに話しだした。
「血圧が高いって、どれくらい?」
わたしが訊ねると、薬を飲まないと、最高血圧が180ぐらいになるという。そうなると、頭が痛くなり、めまいがして、吐き気までするので、今は、降圧剤で130ぐらいまで落としているのだそうである。
「-----で、先生は、とにかく太り過ぎが原因の一つだから、痩せなさいって言うんだけれど、あたし、もう一日中両親の世話で動きっぱなしでしょう。だから、あんまり食べてもいないんだけれど、とにかく太るのよ。痩せなさいって言われても、どうしたらいいのか判らないの」
確かに、従姉は、一日中働き過ぎるほど働いている。両親の足腰が満足でないために、朝から朝食作り、掃除、洗濯、そして家庭風呂は嫌だという両親を自動車に乗せて温泉へ入浴させに行き、また、家まで戻り、買い物に食事作りと、それこそ寝る間も惜しんで動いている。
それだけではない。今度は、親戚の叔母から連絡が入り、病院へ行きたいので連れて行って欲しいと言われれば、また、自動車で叔母を迎えに行き、病院の送り迎えも手伝うことになる。
そして、ついに去年には、従姉自身が過労で倒れた。
それでも、両親は、彼女に休みをくれようとはしない。少し元気になった途端、また、いつものように身の回りの世話をさせるのだ。
「そんなことばかりをしているのに、ぜんぜん痩せないんだから、本当に不思議だよね」
従姉は、我がことながら呆れるように話した。
もっと話をしていきたかったようなのだが、ここで時間を取られていると、あとのことが出来なくなるというので、彼女は、そこまでで言いたいことを切り上げて、自動車のところまで戻ったが、わたしが、何気に、
「また、時間見付けて話しに来てよ」
と、声をかけた途端、彼女は、突然、キッとした顔をこちらに振り向けた。そして、一言、
「こんな状態で、ゆっくり話なんか出来る訳ないじゃないの!」
そう言うと、車内の両親を恨めしそうに睨んで、自分も運転席に腰掛け、自動車をスタートさせたのだった。
この家族を見ていて、わたしはいつも思う。何故、彼女の両親は、もっと娘のことを気遣ってやれないのかと。どうして、自分の脚で歩こうと努力しないのだろうかと。
今度こそ従姉が倒れて入院などしてしまったら、その時は、どうやって生活するつもりなのかと、高齢という理由に甘えている彼らの危機感のなさには、怒りすら覚えるのである。

共同浴場の声・・・・・382
2010年02月10日
< 不 思 議 な 話 >
共同浴場の声
ある猛吹雪の夜、街には、ひとっ子一人姿が見えなかった。
吹きすさぶ風は雪の渦を巻きあがらせ、家々の窓を激しく殴りつけていた。

女湯のドアを開けて中に入ると、他には誰ひとり入浴していない証拠に、照明がすべて消されている。彼女は、電源のスイッチを入れると、蛍光灯の明かりが点いた脱衣所へと上がった。
浴室内の電気も点いて、女性は、冷え切った身体を湯船につからせて一心地ついた時、不透明のガラス壁で仕切られている男湯の方へ眼をやった。
男湯も、この悪天候のためか誰も入浴しているものはいないので、浴室内の電気は消えて、真っ暗であった。
女性は、戸外に吹きすさぶ風の音を聞きながら、温かな湯の中で思い切り手足を伸ばし、独りきりの貸切風呂をゆっくりと満喫していた。ところが、そのうちに、彼女の耳に奇妙な音が聞こえてきたのである。
「ザバーッ、ザバーッ!」
その音は、男湯の方から聞こえてくるもので、明らかに誰かがお湯を使う音である。洗面器で汲んだお湯を、身体に掛けていると思われる気配の音が、はっきりと聞こえてきたのだった。
女性は、誰もいないはずの真っ暗な男湯から聞こえてくるお湯を流す音に、思わず聞き耳を立てた。
(誰か入っているのかしら?だったら、どうして、電気を点けないの・・・・?)
そう思いながら洗髪をしていると、今度は、もっと不気味な物音が聞こえてきたのであった。それは、男性の低い唸り声のような音であった。
「お~っ!お~っ!」
女性は、思わず恐怖心を覚え、髪を洗うのもほどほどに、上がり湯を身体にかけると、慌てて浴室から出ようとした。----と、その時である。
「あれ?もう、行っちゃうのォ?」
「-------!?」
まるで、女性の行動を見ているかのような男のくぐもり声が聞こえ、彼女は、仰天して、濡れた身体を拭くことも忘れ、脱衣所へと戻ったのであった。そして、急いで服を着ると、共同浴場から逃げ出すように吹雪の中へと駆け出したのだった。
あの真っ暗な男湯の浴室内に、いったい何者がいたのか?-----今もって、謎のままである。
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